2000年代に発売された日本製トーイ・ラジオコントロールで、その名も『ラジカン』。円筒の容器に梱包された、まさに “ RC缶詰 ” だった。そんなラジカンの登場で、簡単に走らせて遊べるミニが大流行した。しかし、時代を彩るメイド・イン・ジャパンのトーイ・ラジコンでも、日本で買えないモデルがあったのをご存知だろうか? 今回は海外で認知されたメイド・イン・ジャパンを探ってみる。
『オトナの時間』第三回
2000年といえば、ミニ・クラッシックの生産が終了する頃。まだまだ国内では数多くのミニが街中を走り回っていた。終盤のミニの生産を支えたのは、間違いなく我が国日本。そういった事実を物語るように、ブームともいえる販売台数を誇っていた。そんな時期に発売されたのが、今回紹介する『ラジカン』である。円筒形の樹脂ケースに入れられた玩具系のラジオコントロールカー、つまりトーイ・ラジコン、俗称“トイラジ”である。このトイラジを販売したのは日本の大陽工業というメーカーだ。
『ラジカン』は、ケースから取り出して電池を入れるだけで簡単に遊ぶことができる玩具系のラジコン。手軽さとコンパクトでその名の由来ともなった独特のパッケージ・デザイン。ラジコン自体のコンセプトの新しさが受けて、当時は人気のアイテムとなった。イベントなど、各地で遊んでいる姿をよく目にしたものである。
日本で販売された『ラジカン』はラリータイプも含め3種類。ラリータイプは往年のワークスモデルではなく、’94年のラリー・モンテカルロで出走した101号車、ネコパブリッシングがメインスポンサーだった競技車輌がモチーフだ。そして、クーパーも’90年代の1・3iがモチーフ。グリーンボディに白ルーフとブルーボディでルーフにユニオンジャックが描かれたモデルが作られた。その他にレギュラーモデルではなく、ビールの懸賞としてもう1タイプ。缶ビールリデザインで作られたシルバーのミニがある。
大陽工業はトイラジ生産の部門を持ち、さまざまな玩具を生産してきたメーカーであるが、残念なことに現在は既に存在していない。2007年にセガトイズよる企業買収が行なわれ、タカラトミーが主要株主であった同社はライバル関係にある玩具メーカーとの間で事業譲渡となり、異例のM&Aとなったのである。
さて、時間を少し戻そう。そんな国内で大人気となった『ラジカン』を作った大陽工業は、アメリカでの販売チャンネルもあり、アメリカ向けのトイラジも作っていた。そこに登場したのが『ラジカン』の別バージョン・モデルである。
日本国内販売では、プロポが蓋代わりとなったユニークなパッケージで登場したけれども、お家元の日本では販売されないタイプが海外販売では採用されていた。そう、ここにクローズアップしているアメリカ国旗をモチーフとした派手なルーフのモデルなのだ。
当時流行の折りたたみタイプの携帯電話を模した送信機を採用して、いかにも子供受けしそうなラジコンである。ケースは代わり映えのない紙製の箱となり、そのネーミングも『セル・レーサー』。アメリカで最も一般的に使われている携帯電話の表現のセル・フォンに由来しているのは一目瞭然。「パカッと開けてボタンを押すと見事に走り出す」。日本で販売しても人気になったかも知れないアイデアであるが、先に『ラジカン」として販売されていたから、敢えてこのタイプは国内販売はしなかったのだろう。
それまで一度も見たことがないUSAフラッグ、星条旗を纏ったミニ。当時、これにはさすがに驚いた。’60年代からいろいろなミニのモデルが世界中で作られてきたが、星条旗のミニは40年の間に作られたことはないアイテムである。
「これさえ付いていればアメリカでは売れてしまう?」、あるいは「英国の国旗も販売されたから、それなら米国向けにはいっそのことと作った?」、いずれにしてもアメリカ向けらしいアイテムと称することができるのは間違いない。
『セル・レーサー』は量販店の玩具コーナーに並べられて販売されていたものなのだろう。「製品の不良等の問い合わせはダイレクトに弊社まで問い合わせしてください」と説明書には書かれている。’80年代から多くのメーカーが玩具系といえるミニのラジコンを作ってきているが、どのラジコンもとても個性があり、さらには魅力的であり、個人的には大好きなジャンルだ。しかし、この『ラジカン』のミニは、単にそういった部類に入れてしまうには少々レベルが違うかな、というほどにしっかりした作りである。ボディはとてもできの良いシェイプであり、玩具としてしまうのがもったいないほどのデザインである。この当時は3D加工機での原型ではないと思われるので、素晴らしい技術であったと賞賛して良いものだ。
少しずつ減りつつあるミニの玩具たち、ラジコンの世界でも走るミニはすでになくなり、プラモデルも消えてしまった。リアルタイムで遊んだ子どもたちが懐かしく想い、こういった玩具を愛おしむ、もはや時代はそんな領域になっているのかもしれない。
日本で発売されたラインナップである。本文にあるようにモチーフは’90年代のローバー・ミニ。いわゆる『ネコ・モンテ』を含め、スタンダードなホワイトルーフのサルーン、ユニオンジャックルーフの3種類となる。さらに、当時販売されていたノンアルコールビール飲料『バービカン』の抽選プレゼントの限定モデルを含めると、トータルで4種類
海外では大陽工業の『ラジカン』を模造して多くのコピー商品が販売されていた。ヨーロッパの各地で売られていて、製造販売される地域によって異なったデザインがある。モデルカーの大きさが小さいタイプなども存在して、網羅するとその種類の数は全くもって不明である。おそらく、継続販売を考えない売り切りタイプの玩具であったと思われる
見事なまでのアメリカンチックなミニ。ホットドックでも食べながら遊びたいッ! そういった気分にさせてくれる。星条旗ひとつで、まるでトイ・ストーリーに登場するような出立ちに変わってしまうのも、愉快このうえない。とはいえ、可愛い金髪ボーイズがこのラジコンでガンガン遊んでいるのを想像してみると、アメ車に軍配は上がる気もするが……
米国販売モデルに使われたのは、それほど特殊性のない紙箱によるパッケージ。冒頭の写真を見てもお分かりのように、サイズも大きい。無駄を省いた“缶詰風パッケージ”は日本人好みなのだろうか
R/Cの操縦チャンネル自体は変わりなく、8方向のコントロールが基本になる。『ラジカン』のプロポは前後左右の4つのボタンを組み合わせて操作するが、『セル・レーサー』は8個のボタンでそれぞれ単独操作。フォールディングタイプなのは、片手アクションをさらに楽しむためなのか