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エンジンの状態と仕様変更

 今年の開幕戦(第2戦)と第3戦の間の期間を利用してエンジンを開けて健康診断して頂きました。

 振り返ると、17年末にクラッシュし、18年シーズンからボディを交換してエンジンを1,460cc仕様にしてレースに復帰するもエンジントラブルの連続でまともに走れず、19年末に今のエンジン仕様に変更しました。19年12月のSV走行会が今の仕様での走り始めで、それから丸2年間大きなトラブル無く走りきることが出来ましたし、今感じている不調もないのですが、2年間レースで酷使した後の状態がどうなっているかの確認のための健康診断になります。ついでにちょっとした仕様変更もしましたので記録として残しておきます。

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 ヘッドを外して健診開始。

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 ピストントップの状態です。問題なしです。

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 シリンダーウォールの状態。

 ホーニング跡は若干削れてしまっているように見えますが、摩耗量は1.5/100mmで、許容範囲というか2年間レースで酷使した後としてはかなり優秀かと思います。

 ちなみにショートハイトピストン/ロングストローククランクシャフトの1,460cc仕様の時は2レース走行後(しかも予選リタイヤで本戦走ってない)で10/100mmの摩耗量でした(こちら)。

 ミニのクランクシャフトは旧式な3ベアリングであるためクランクシャフトの曲げ方向およびねじれ方向の変位が大きく、これによるピストンの振れ分を許容するためにピストンクリアランスを最近の自動車と比べるとかなり大きくとっています。ピストンクリアランスが大きいとピストンは首振りしやすくなるのですが、クランクシャフトをロングストローク化したりピストンをショートハイト化するとその傾向が更に激化すると考えてます。ピストンの首振りによってピストンとシリンダーウォールとの接触が起きると機械的ロスが大きくなって出力に影響しますし、接触による摩耗は耐久性にも影響します。

 1,460cc仕様ではまさにそんな現象が起きていたと考え、それらのリスクを避けるために今の仕様(ノーマルハイトピストン/ノーマルストロークの1,380cc)を選びましたが、今回の健康診断でその狙いが正しかったことを確認できました。仕様変更して良かったと思ってます。

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 ピストンリングも問題なし。

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 ピストンクリーニング後です。

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 1番ピストン。スカートにちょっと縦傷入ってます。

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 2番ピストン。同じく。

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 3番ピストン。同じく。

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 4番ピストン。同じく。

 心の目で見ると1番→4番で縦傷が多くなっている気がしますが、クランクシャフトのねじれ振動の集中とかあるんでしょうかね。

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 クランクシャフト様。

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 フロント側メインジャーナル問題なし。

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 センターも問題なし。

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 リア側。負荷が最も大きくなるそうですが、ここも問題なし。

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 ベアリングフロント側。問題なし。

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 センター問題なし。

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 リア側も問題なし。

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 ノーマルハイトピストン/ノーマルストローククランクシャフトの1,380cc仕様はシリンダーの摩耗に優しいことは確認できましたが、それでもピストンに若干入ってしまった縦傷が気になります。この部分の接触を抑制できれば更に機械的なロスが低減できるのでは?という期待もありまして、

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 ピストンのスカート部分へコーティングを追加しました。

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 ピストンはこれまで使っていたものをそのまま使用しています。

 コーティングは、潤滑成分としてはモリブデンとテフロンを混合したもので、それらとバインダー成分の樹脂を混合したスラリーをピストンに塗布して加熱硬化させて固定してます。コーティング層の厚さは30μm(0.03mm)です。調べたところによると、高回転用途にはテフロン系が、高負荷用途にはモリブデンが向いているとのことで、競技自動車用途であればモリブデン系が多く用いられているようです。

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 30μmのコーティング層を追加して、ピストン径で60μmの増大です。狙い通りの層厚を確認できました。

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 ピストンおよびコンロッド系組み付け完了。

 ちなみに、ピストンの首振り抑制のための更なる対策案としては、今使っている鍛造ピストンではなく一般的な鋳造ピストンに変更するという選択肢もあります。鍛造は鋳造に比べて機械強度および耐熱性に優れる一方で熱変形が大きいというデメリットがあり、ピストンクリアランスを大きめに取らざるを得ないという事情があります。デトネーションに弱くなるというリスクはありますが、鋳造ピストンを選んでピストンクリアランスを狭めれば更なる機械ロス低減が期待できると思ってますが、それはまた次の機会に試してみようと思います。・・・クリアランス詰めすぎると今度はクランクシャフト変形分のピストンの振れが吸収できなくなって逆にピストンとシリンダーウォールとの接触が増えるというリスクもあって、ミニのエンジンって難しいですね。

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 カムシャフトを仕様変更しました。

 これまでは扱いやすさを狙ってMED2を使ってきましたが、高出力化を狙ってMED3を選びました。8ポートヘッド用のカムシャフトはMED1〜MED3の3種類の中から選ぶしかないんですが、その中の一番過激なものを選んだ形です。開弁角度は実に320度、オーバーラップ116度という、5ポートだとアイドリングもまともに出来ないような過激仕様ですがw、8ポートだと割と安定して使えたりします。マルチポートヘッドのメリットですね。

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 リフターはこれまでDoさんのものを使ってきました(上の写真左側)。表面処理が削れてましたが十分許容範囲でした。
 今回はKAD製を選びました(写真右側)。端の部分がラウンド加工されていてブロックに優しい仕様とのことで、試してみようと思います。

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 重量はDo製が43gに対して、

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 KAD製が40gで、わずかに軽量化できます。

 オイル穴の位置とか細かく違っていて設計思想が興味深いですね。この位置だとリフター内にオイルをできるだけ溜めずに軽量化する狙い、でしょうか。

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 ガスケット厚さで圧縮圧力を調整して、

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 完成!

 第3戦の翌日、所沢秘密基地でパワーチェックして頂きました。

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 最大トルク15kg・m、修正後出力で146PSを達成!

 僕とP師の間ではミニのエンジンチューニングにおけるリッター100PSの壁というのがあって、赤ミニ時代もこの壁を越えられないでいました(1,075ccで107PS・・・あとちょっと届かない涙)。それを超えることが出来たのは大きな進歩であり、ちょっと驚きでもありました。

 十分満足できる結果ではありましたが、まだ改善の余地はあります。4,000回転あたりのトルクの落ち込みが大きく、その原因としてその領域の燃調が濃すぎるという現状も分かったりしましたので、今後のチューニング指針を考える良い機会にもなりました。ご協力頂いた皆様、ありがとうございました!

 ちなみにこの仕様で第3戦を走ってラップタイムは約1秒縮めることが出来たので戦闘力的にも効果はあったのですが、レース結果は第2戦の4位から第3戦の8位と後退してしまってますw 周りの進歩が早いのかドライバーがイケてないのか・・・レースって難しいですね←
 エンジン的にはこれまで抱いてきた不安点を払拭できましたので、来シーズンは安心して腕を磨こうと思いますw

 おそらくこれが今年最後の更新になります。エンジントラブル続きだった1昨年からこの状態まで復活させてくれたP師、レース活動を支えてくれたSV若手メカニックの皆さん、そしてMRRCのお仲間の皆さん、今年1年間ありがとうございました。来年もまたよろしくお願いいたします。

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