日がな一日、愛車を洗車し、汚れひとつないボディを眺めて悦に入る・・・。
クルマ好きにとって至福のひとときだろう。レンタカーやカーシェアリングでは味わうことできない「愛車」を所有するオーナーに与えられた特権のひとつだ。
しかし、これが旧車オーナー(ネオクラシックカーを含む)ともなれば事情が異なってくる。ボディ全体にバシャバシャと水かけて汚れを落とす洗車スタイルは御法度なのが定説だ。
では、実際に旧車オーナーはどのようにして愛車を美しい状態に保っているのか? オススメの洗車グッズは? 1960年代〜1990年代各オーナーの洗車事情を交えつつ紹介したい。
文/松村透
写真/Adobe Stock、松村透
【画像ギャラリー】S800、コスモスポーツ、MR2、GT-R。1960〜90年代のオーナーの洗車事情とは・・・
■旧車にとってNG行為な洗車とは?
愛車を洗車する流れは人それぞれ、自分なりのやり方があるだろう。
天候は曇り。適量のカーシャンプーをバケツに入れて水で希釈し、スポンジに液剤を含ませる。ボディの屋根から下回りの順に水をかけ、同じ流れである程度の汚れを浮かして洗い流す。洗車スポンジを使って液剤を泡立て、ボディの汚れを落とす(浮かした汚れが乾かないうちに水で洗い流す)。
さらにボディ表面やドアおよびトランクを開けた状態で水分をセーム革やウエス等で、ホイールに付着したブレーキダストはタオル等でていねいに拭き取る。仕上げにお気に入りのワックスを使って・・・。ざっくりいうとこのような流れだろうか。
しかし、この一連の作業は旧車にはあてはまらない、というよりも「御法度」と考えたほうがいいかもしれない。
現代のクルマにはボディの錆に対する保証が一定期間設定されている。トヨタや日産を例に挙げると、「ボディ塗装(新車登録日から3年間)、ボディ外板穴あき錆(新車登録時から5年間)」がひとつの基準といえそうだ。
しかし、旧車と呼ばれるクルマは防錆に関する保証期間が設定されていたとしてもとうの昔に過ぎている。年代によっては製造時の段階で防錆処理が施されていない場合もある。
つまり、まともに水を被ったら、最近のクルマよりもボディに与えるダメージは大きいと考えるのが自然だ。
■実録! 年代別旧車オーナーの洗車事情とは?
では、旧車オーナー(ネオクラシックカーを含む)は実際にどのようにして愛車と接しているのであろうか。1960年代〜1900年代各オーナーの洗車事情を伺ってみた。
◆1960年代車オーナーの例:
Q1.お名前(HN)/ご年齢
A1.ふくすけさん/63歳
Q2.所有車について(年式/メーカー/車名)
A2.1966年式ホンダS800
Q3.所有年数
A3.5年
Q4.保管状況について
A4.屋根付きのガレージ
Q5.普段洗車する/しない?
A5.洗車はしません
Q6.洗車する場合のサイクルは?
A6.手に入れてから2回ほど
Q7.洗車方法は?
A7.見かねた友人が手洗いで洗車してくれることもあります
Q8.洗車時にこだわっていることはありますか?
A8.あまり濡らさないように気をつけています
Q9.洗車時に気をつけていることはありますか?
A9.濡らしたままにしないことです
Q10.一押しの洗車グッズはありますか?
A10.フクピカ
◆1970年代車オーナーの例:
Q1.お名前(HN)/ご年齢
A1.ポの管理人さん/58歳
Q2.所有車について(年式/メーカー/車名)
A2.1970年式マツダコスモスポーツ
Q3.所有年数
A3.32年
Q4.保管状況について
A4.屋根付きガレージでボディーカバーをかけています
Q5.普段洗車する/しない?
A5.どちらかというとしない方です
Q6.洗車する場合のサイクルは?
A6.イベント前に洗車する程度です
Q7.洗車方法は?
A7.拭くだけです
Q8.洗車時にこだわっていることはありますか?
A8.水はけの悪いクルマなので「水をぶっかける」ようなことはしません
Q9.洗車時に気をつけていることはありますか?
A9.特にありません
Q10.一押しの洗車グッズはありますか?
A10.コストコのマイクロファイバータオルです
◆1980年代車オーナーの例:
Q1.お名前(HN)/ご年齢
A1.AWさん/51歳
Q2.所有車について(年式/メーカー/車名)
A2.1985年式トヨタMR2(AW11型)
Q3.所有年数
A3.7年
Q4.保管状況について
A4.屋根付き車庫
Q5.普段洗車する/しない?
A5.します
Q6.洗車する場合のサイクルは?
A6.汚れたら
Q7.洗車方法は?
A7.水洗い
Q8.洗車時にこだわっていることはありますか?
A8.先に水で微細な砂等を落として洗車
Q9.洗車時に気をつけていることはありますか?
A9.天井から洗う
Q10.一押しの洗車グッズはありますか?
A10.特にありません
◆1990年代車オーナーの例:
Q1.お名前/ご年齢
A1.大澤哲也さん/55歳
Q2.所有車について(年式/メーカー/車名)
A2.1993年式日産スカイラインGT-R Vスペック
Q3.所有年数
A3.21年
Q4.保管状況について
A4.ボディカバー
Q5.普段洗車する/しない?
A5.洗車します
Q6.洗車する場合のサイクルは?
A6.汚れが目立ったら
Q7.洗車方法は?
A7.水洗い(バケツ1杯)
Q8.洗車時にこだわっていることはありますか?
A8.基本的にバケツ1杯のみで洗車しています。鉄粉取りの時はホースで弱く水を掛けながら。以前はホースで目一杯水を掛けでカーシャンプーを使っていました
Q9.洗車時に気をつけていることはありますか?
A9.水分をしっかりと取ることです
Q10.一押しの洗車グッズはありますか?
A10.仕上げに使う固型ワックス(シュアラスター マンハッタンゴールド)
■現代車オーナーも参考になる? 旧車オーナーたちが愛用する洗車グッズ
今回、取材させていただいたオーナーを含め「水洗いをしなくても洗車した効果が期待できる」グッズを挙げてみた。
どちらかというと「ボディの磨き傷ひとつ耐えられない」や「○○○社以外の洗車用品は使わない」といったこだわり派より、旧車オーナーやお手軽に愛車をきれいにしたいユーザー向けのセレクトといえそうだ。
◎フクピカ(SOFT99)/実勢価格:1500円前後(12枚入り×3パック)
洗車マニアから洗車嫌いまで、幅広いユーザーにおすすめできるアイテムのひとつがフクピカだろう。発売開始が1998年とのことで、23年もの歴史がある定番&ロングセラー商品だ。
「水なし洗車&ワックス」の触れ込みどおり、サッと拭くだけでボディの汚れ除去だけでなく、ワックス効果も得られる。筆者も、ドアパネルやリアゲートの内側、エンジンルームなど、洗車時にすみずみまで使っている。
シンプルながら使い勝手は抜群。ネット通販はもちろんのこと、カー用品店はもとより、場所によってはコンビニの店頭でも売られているフクピカ。価格の安さと入手のしやすさも魅力だ。
◎ガラス・ボディクリーナー グラスターゾルオート(PiKAL)/500円前後(1本あたり)
タクシー業界およびベテランの旧車オーナーに愛用者多し。それもそのはず。エアゾールタイプの発売は1958年(昭和33年)というから、すでに60年以上の歴史を持つ超ロングセラー商品。もはや洗車グッズのレジェンド的存在といえる。
ボディやガラスにスプレーしてきれいな布等で拭き取るだけで汚れが除去できる。ただ、スプレー式なので、手が届きにくい箇所などはウェスにスプレーして汚れを拭き取るなど、使用する際にはちょっとした工夫が必要な商品ではあるが、愛車がきれいになることを考えれば手間のうちに入らないだろう。
ネット通販はもちろんのこと、ほとんどのカー用品店で入手可能。実勢価格が500円前後と、お財布に優しいのも嬉しい。
◎ゼロウォーター(シュアラスター)/実勢価格:2400円前後
こちらもネット販売だけでなく、多くのカー用品店(コストコの店頭でも売られていた)で入手可能な「シュアラスター ゼロウォーター」。発売開始は2010年。いまや親水系/撥水系など、用途に応じた幅広いバリエーション展開も魅力だ。
ボディが濡れた/乾いた状態(ただし汚れが除去してある前提)どちらでも使用可能。
当時のプレスリリースによると「繰り返し使用することで、艶が深まっていき、汚れも付きにくくなるとしている」との触れ込みだが、筆者も10年ほど前にユーノスロードスターを所有したいた時から愛用しており、使うほどにボディーの艶が増していく効果を実感している。
実勢価格は2400円前後とちょっとお高めだが、専用のクロスが付属しており、中型車であれば約6台分の施工が可能だ。
◎VAC バリアスコート(ワコーズ)/実勢価格:3500円前後
「オートバイ・自動車のボディやホイール・レンズ類・スクリーン類・ヘルメット・シールド等(ミラーシールド加工等の特殊コーティングしているものを除く)、金属・樹脂塗装面の洗浄・保護・コート」と、幅広い用途に使える多用途コーティング剤。持続力は最長6ヶ月。
発売開始は2008年。実勢価格は3500円前後とお高めだが、ガラス系コートの施工効果が期待でき、これ1本で幅広い用途に使える点、さらに専用のクロスが2枚付属しているあたり(1枚目が汚れてきたらすぐに2枚目に移行できるなど)、面倒くさがりのユーザーにもオススメだ。
◎毛ばたき(オーストリッチ毛)/実勢価格:10,000円前後
オーストリッチ、いわゆるダチョウの毛で作られた毛ばたきだ。ガレージ保管といえも、ボディ表面に埃がつくのは避けられない。屋外保管で、ボディーカバーともなればなおさらだ。
そこで、ボディ表面に付着した埃などを優しく除去するのに最適なのがオーストリッチ毛の毛ばたきというわけだ。
毛ばたきにもさまざまな種類があるが、オーストリッチ毛は総じて高価。安くても7000円前後。高額なものだと数万円というものもある。
とあるコンクールドデレガンスに優勝したオーナー(ガレージ保管)曰く、普段の手入れは「オーストリッチ毛の毛ばたきを2本用意して、片方はボディーの埃取り専用。もう片方はポンポンと叩き合わせることでボディ用の毛ばたきの汚れを落とす専用」と使い分けているという。
初期投資は高くつくが、長く使うことで元を取る方法もありかもしれない。
■結論:旧車オーナーは水洗いを避けて洗車するのが得策
最終的には現オーナーの考え方次第だが、結論としては「水洗いを避けて洗車する」のが妥当といえるだろう。特に古い日本車の場合、ゴム類が製造廃止になり入手できないケースが多い。劣化していても代替品がないから使い続けるしかないのが現実だ。
また、ボディの水抜きの穴に汚れが蓄積して目詰まりを起こしたり、もともとの設計上、うまく水流れず特定の場所にたまってしまうケースもあるようだ。その結果、逃げ場を失った水がボディの特定の場所に蓄積され、錆を誘発する要因にもなりかねない。
そうなると、究極の洗車は「洗車をしない」ことだろう。とはいえ、屋外をホンの10分でも走行すれば、大気中の汚れはもとより、時期によってはスギ・ヒノキ等の花粉がボディに付着する。水洗いの工程をすっ飛ばしていきなりボディの汚れを拭き取るとなると、ある程度の磨き傷は避けられない。
そこで、前述のように1本1万円前後もする毛ばたきを2本用意して、優しくボディーに付着した埃や不純物を除去するといった涙ぐましい努力をしているオーナーも実在する。
ボディのコンディション保護を最優先にするなら、多少の磨き傷は目をつぶり「ある程度きれいになればそれでOK」くらいの、良い意味での寛容さや割り切りが必要なのかもしれない。
■余談:旧車オーナーは雨の日のドライブを避けるべきか否か?
ボディはもとより、エンジンルームやホイールハウスにも断続的に水がかかることになる。所要時間にもよるが、ボディ全体がかぶる水の量は洗車どころではないだろう。
雨の日に旧車に乗るか否か、この点はオーナーによって考え方がまったく異なってくる。
オーナーインタビューで旧車とそのオーナーを取材させていただく場合「雨の日は避けてほしい」といわれることもしばしばだ。
そのため、週間天気予報で取材予定日に雨のマークがついた時点で、オーナーと日程の再調整をはじめることも少なくない。
こちら側としては、雨だろうが雪だろうが1日でも早く「撮れ高」が確保できた方が気が楽になる。しかし、そういう問題ではない。オーナーにとって他に代わるものがない「愛車」だ。
そんなこともあり、古いクルマであればあるほど、雨に濡れるかもしれない日の取材は極力回避するようにしている。
五木寛之の名著『雨の日には車をみがいて』ではないが、もしガレージ保管をしているなら、雨の日はクルマ磨き(またはクルマいじり)に専念するのがよさそうだ。
もし、ガレージがないという場合は・・・自宅でクルマ関連の雑誌やネット、蒐集してきたコレクションの整理、懐かしいクルマのカタログを読み返すなど、雨の日ならではの楽しみ方を模索してみるのもアリだ。ただし、思わぬ散財にはご注意を!
【画像ギャラリー】S800、コスモスポーツ、MR2、GT-R。1960〜90年代のオーナーの洗車事情とは・・・
投稿 洗車しないのが究極奥義!? 1960〜90年代旧車オーナーの洗車事情とは は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。