自らの手で愛車のメインテナンスを施したいユーザーにとって、往時のサーヴィスマニュアルは欠くことのできない情報ソースであろうと察する。ワークショップ・マニュアルとも呼び、まずディーラーのメカニックが使用する文献がある。近年は情報量が莫大になりすぎて、とても印刷物でカバーすることができず、CD・ROMやクラウドにて提供されるようになっていて、時世を反映した変化である。
しかし、旧いクルマを楽しむにあたっては、往時のマニュアルは間違いなく印刷物だ。おおらかな時代だったのか、ディーラーで使用するサーヴィス・マニュアルであっても、ユーザーが希望すれば購入できるものもあった。まぁ、驚くほどに高価ではあったけれども、古書として流通することもある。オースチンローバー時代のミニのマニュアルなどは少しも油で汚れていないところを見ると、現場工場で使われていたものではないのはあきらかだ。食指が動く人もいるのではないだろうか。
一方で書籍化されたマニュアルで著名なのは『ヘインズ』、お世話になっている方も多かろう。出版社が編さんした整備文献としては最右翼だ。今回紹介しているのは、さらにスペシャル版で編集されたリンゼイ・ポーターのミニのレストア・ガイド。すでに絶版ではあるが、中身は濃い。巻末のペイントコード、カラースキームのリストなどは実に有益な資料といえよう。
趣味人は資料を好む。ミニの書籍の中では資料的な要素が満載で、評価の高い一冊である。著者はジョン・パーネル、書名は『オリジナル・ミニクーパー・アンド・クーパーS』。原書はヘリッジ・アンド・サンズの英語版で、本書は二玄社が翻訳した日本語版である。スタンダード・クーパー2車種、クーパーSの3車種を網羅し、各車輌の特徴解説はもとより、生産台数や仕様変更のリスト、カラースキームなどか掲載されていて、ミニの過去を知る資料としては相当に充実している。各国のクーパーモデルや’90年代の復活したクーパーも収録されている。
もう一点紹介するのは1980年に発行されたジェフ・ダニエルズの『ブリティッシュ・レイランド』。往時は車輌関連の書籍を多く発刊していたオスプレイ・パブリッシングからの刊行だ。カヴァ写真には象徴的にミニのボンネットが使われ、コンテンツも帝国と称したBMC時代の話題から、革命と表しているミニや兄弟車のADO16にも多く言及している。
’70〜’80年のブリティッシュ・レイランドが生産した車種全般が対象になっているので、ミニ色はさほど濃くはないのだが、クラブマンシリーズやイノチェンティに関する記述もあり、じっくり読むには面白そうなコンテンツである。なにせ、サブタイトルが「車輌の真実」となっているのだから、斜陽の’70年代英国自動車産業を読み解くには絶好の一冊といえよう……。
ミニに関する文献はさすがに多い。趣味の王道、英国車を学ぶには絶好の機械と思うのだが、いかがであろう。ぜひ、お気に入りを手に、ステイホームを充実した時間にして欲しいものだ。