Mod, novel style Presented by StockVintage
ストック・ヴィンテージ田中氏が挑戦するインジェクション・チューンのレポートをお届けする本企画。MEMSチューンアップメソッドの新機軸として、独自の視点で開発されるパーツは多くのユーザーの視線を集める。本号のトピックは『コネクティングロッド』、軽さと精度を限りなく追求する製品、その優位性を探ってみる。
エンドユーザーのミニがより良く愉しめる素材となるように、さまざまなアイテムの開発に余念のないストックヴィンテージの田中氏からのアプローチ。今回のテーマは『コネクティングロッド』、通称コンロッドである。連載の当初に少し紹介をしているのだが、再度そのパーツの特徴をレポートしたいと考える。ストックヴィンテージがリリースするオリジナルピストン(昨今、ちまたでは“ハートピストン”といった愛称が流布されているようだが……)とのコンビネーションが秀逸だとの声からも、製品のメリットを考察してみたいと思う。
ミニの純正コンロッドは重い。さまざまな自動車の整備経験を持つ田中氏としては、長らくこの重量が気になっていて、手作業で研磨してきたという。編集子に「重さに理由があるのだろうか」と質問してきたほどに、いまなお気になる事柄であるようだ。ノーマル・ストックのコンロッド重量はおよそ650g、手加工で切削しても重量は580g程度までの軽減が限界だった。回転部分は重量が軽い方が良いとは思っているのだが、回転する駆動軸は、ある程度の重さによってトルクを得ることを考えると、軽さばかりを追求するのはどうなのだろう、といった疑問をずっと持ち続けていたと話す。が、現在は軽さを求めて邁進している。これまでの経験則によって得られたデータによって、コンロッドの軽さのメリットを認識したからである。ではオリジナル・コンロッドを紹介していこう。
4気筒エンジンのクランクシャフトのデザインは、2番と3番のジャーナルが同位置になっている。クランクシャフトだけを考えるのであれば、回転時のバランスがさほど悪いものではない。しかし、コンロッドが装着されることによって、回転していったときに2番、3番ジャーナルの部分が押され、しなるような力が加わってくると田中氏は分析をする。エンジンを分解したときに、メタルに対してそういった傾向の当たり方、摩耗の特性を表すのである。とくに、高回転で回すエンジンでは顕著に表れるという。
クランクシャフトのしなりの原因を考えると、先ず中央部分の重さが有力な要因。5ベアリングになれば、しなりがだいぶ抑えられることは想像に違わない。往年のクーパーS用の強化部品、EN40Bであれば相当に抑えられてメタルの当たりがだいぶ変わってくる。つまりクランクシャフト自体の強度も影響があるということだ。
遠心力によるクランクシャフトのアンバランスを回避するために、結果的にはコンロッドは軽い方が有利だということ。とあるチューナーは「コンロッドは軽ければ軽いほどよい」とコメントしている。コンロッドは燃焼によって発生するレシプロ運動をクランクシャフトの回転運動に変換するための可動パーツ。ダイナミックに力のかかる方向が変化するので強度が必要なことは理解できるのだが、この部位にオーバークォリティは重量増、マイナス要素である。
実際、コンロッドを軽量化し、モータースポーツ環境でも使用する状況でクランクシャフトやメタルの状態を確認すると、旧来のシャフトのしなりを示すような摩耗は各段に減ったと話す。ピックアップが良くなった感覚や回転が上昇したときのパワー感を得られることもあるのだが、最も重要な要素はクランクシャフトメタルの摩耗状況が良好になったことだ。
加工はマシニングで片面ずつとキャップを外してエンド部分の3回行なっているという。ジグに固定し、均質な切削加工が施される。左側に掲載した全体写真とともに、各部分の加工前後のフォルムをチャックしていただければ、どれほど大幅に削り取っているのかが認識できると思う。現在も製品プルーフは繰り返して行なっており、その効能は間違いのないものになっている。エクスチェンジ、もしくは持ち込み加工の価格は80,000円。ピストンと併せての交換が得策であろう。そのコンビには編集子も実に興味津々なのである。
軽さがもたらすメリットとは…
ピストン、コンロッド、クランクシャフトの合成された運動は理解が難しい。田中氏の解説によれば、シリンダで燃料が燃焼膨張して得られる力はそんなに強烈なものではないという。下降するストロークの間、じわっと押し続けるだけだ。例えば、プラスティックハンマーでピストンをコンッと叩いたときの方が絶対的な圧力は強いと聞く。現実的には機械的な回転のモーメントの方が段違いに強い力が及ぶらしい。回転する重量が遠心力で何倍、何十倍にも変化してしまうという。そう考えると、コンロッドの軽量化によってビッグエンドが振り出されたときの応力が大幅に軽減できるメリットは実にはありがたいこと。その結果としての摩耗改善なのでろう。
紹介しているオリジナルの軽量コンロッドは純正品をマシニングによる切削加工することで製造している。コンロッドの重量は480gがターゲット、この重量減が大きな効果を生む。確かに、エンジンの構成部品を軽量化することはチューンアップの基本ではあるが、コンロッドの軽量化に関しては、これまで説明したようにクランクシャフトのしなり、メタルの偏摩耗に対して大きな効果がある。これを重要視しているのは、田中氏のチューニングドクトリン、『エンジンの保護』と『街乗りで使いやすいミニ』という強い想いがあるからだ。
「コンロッドを軽量化してクランクシャフトの負担を減らし、フライホイールによってトルクを得ることが、乗りやすさやエンジン保護につながると確信したんです。もうひとつ、クランクプーリーは重くすることで、さらにバランスは良くなるということは覚えておいて欲しいですね。何が何でも軽くしろ、とは絶対に言いませんよ」
エンジンのバランスを整えることを命題に、軽量化や製品の安定化に努めた結果が紹介したコンロッドである。トータルでチューニングバランスを考える田中メソッド、その効果には期待大、なのである。
[協力]Stock Vintage http://stock-v.net