テレビの画面でクルマがジャンプして空を飛ぶのは、アニメの「マッハGo Go Go」のマッハ号か激しいカーアクションが魅力の「西部警察」くらいだった。
しかしわずか15秒のTV-CFでパリのエッフェル塔前で空を飛んだり、2台のクルマがまるで社交ダンスを踊っているかのようにパリの街を駆け抜けていく映像が流れたのはインパクト大だった。そのクルマが「街の遊撃手。」というキャッチコピーで1985年5月に登場した、いすゞFFジェミニだった。
みなさんはこのTV-CFを覚えていますか? FFジェミニのTV-CFの背景とともに、いすゞジェミニとはどんなクルマだったのか。そして現在FFジェミニの中古車は手に入るのかを紹介する。
文/萩原史博、写真/いすゞ ベストカーweb編集部
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■FRからFFへ劇的に進化を遂げた2代目ジェミニ
遊撃手といえば、野球のショートストップのこと。ショートストップは戦列で時期を見て待機し、動き回ってあちこち固める遊軍のようだ。と訳したことから遊撃手と言われるようになった。
そして、ショートストップは足の早さや肩の強さ、さらに高い判断能力を求められるため、攻・走・守のバランスが取れていることが求められるそうだ。
FFジェミニはオシャレでキビキビとした走りのクルマとして開発され、このキビキビした走りから想起されたのが野球の遊撃手だったことからジェミニの走りのイメージとマッチしたという。
しかし遊撃手だけでは、野球のイメージが強すぎてしゃれたセンス表現ができない。そこで、FFジェミニが最も似合う走りのシーンを想像して追加されたのが街と言う言葉だった。そして「街の遊撃手。」というFFジェミニのキャッチコピーが出来上がったのだ。
当時クルマの広告宣伝の主力は有名な俳優やタレントを起用するイメージ広告が主流だった。これはタレントの個性とクルマのコンセプトが一致すれば、非常に効果的だ。しかし多くの場合タレントが主となり、クルマが従となってしまうことが多くクルマの本質が伝わりにくい。
また、有名なタレントを起用するには高額なギャランティーが必要となる。そこで、FFジェミニは広告展開において、クルマのコンセプトである「小さいけれどヨーロピアン感覚の、おしゃれでキビキビした走りのクルマ」を逸脱せず、クルマのキャラクターを脳裏に残る強い印象は何かを考えた。
その結果、「街の遊撃手。」をビジュアル表現するために、ストレートにヨーロッパの街角にFFジェミニを置いて、質感そして本物感を表現することとした。
当時は現在のようなCG合成などの技術が未熟で、質感を実現するためには現地ロケを行うことがマストということで実際にパリで撮影を行った。
ジェミニのイメージであるキビキビとした走りを表現するのに、2台のクルマがパリの街中を駆け抜けながら、ペアとなってダンスを踊るように走り、最後にポーズを決める。というアイデアは、広告代理店のプロデューザーが通勤途中で見かけた展示してあるクルマから生まれたという。
■映画のカーアクションさながらのTV-CFはインパクト大
クルマがダンスを踊るように走る。アイデアは素晴らしいが、実現可能なのかどうかという疑問がスタッフに残った。しかしそれを簡単に払拭したのが、フランスに本拠を持つ、レミー・ジュリアン アクションチームだった。
映画「007」シリーズでカーアクションを担当するこのチームの存在なくして、このTV-CFの成功はありえなかった。
黄色と赤のジェミニが2台揃ってスピンターンをしながら走る作品やこの2台がエッフェル塔前をジャンプしている作品。名曲「雨に歌えば」をバックに黄色と緑のジェミニがスピンしながら走行する作品。青と黄色のジャミニ4台がパリの街を駆け抜けて最後ジャックナイフでポーズを決める作品。
極めつけは1986年の正月にオンエアされたジェミニダンスシングシリーズ。あけましておめでとうございます。の文字をバックに赤と黄色のジェミニが片輪走行を行う作品や赤と白のジェミニがパリのメトロの駅を走行し、出入口から出てくる作品などもある。
文字にするだけでもワクワクしてくるが、シリーズ化されているのが特徴だ。ちなみにこのTV-CFはYouTubeで検索すれば今でも見られるので探して、1度は見てもらいたい。
そんなTV-CFでインパクトを与えたいすゞジェミニだが、この1985年に登場したジェミニは2代目モデルとなる。1971年にいすゞはGM(ゼネラルモーターズ)と提携を行い、このパートナーシップによる初のワールドカー構想(Tカーシリーズ)の乗用小型車として1974年に初代ジェミニは登場した。
■オペル カデットをベースに開発された初代ジェミニ
名称のジェミニは双子座の意味で、GMとの共同開発にちなんで命名されている。ベレットの後継車として登場した初代ジェミニは、オペル カデットをベースに開発されたFR車の小型の2ドアクーペと4ドアセダン。
搭載されているエンジンは、当初は1.6L直列4気筒ガソリンのみだったが、後に1.8Lガソリンエンジンを追加。
そして、小型ディーゼルエンジンの先駆者として知られているいすゞらしく、1979年11月に1.8L直列4気筒ディーゼルエンジンを搭載。最高出力61ps、60km/h定地走行値29km/Lという低燃費を実現し、ジェミニはディーゼル乗用車の代名詞となった。
また、このディーゼルエンジン登場に先立って6月にマイナーチェンジを実施。内外装のデザインを大幅に変更し、フロントマスクは逆スラントマスクから、スラントノーズへと変更。ヘッドライトも角目2灯へと変更された。
そして同年11月には1.8L直列4気筒ディーゼルエンジンそして、1.8L直列4気筒DOHCエンジンを搭載したZZを追加。このZZはラリーに参戦するなどジェミニのスポーツモデルとして人気を博した。初代ジェミニは2代目のFFジェミニが登場した後も併売され、1988年に生産終了している。
■17年ぶりのオリジナル設計で2代目ジェミニはFFに
2代目のFFジェミニはその名前の通り、駆動方式をFRからFFに変更し、117クーペ以来、17年ぶりのオリジナル設計のモデルとなっている。ボディサイズやエンジンを小型化しているが、駆動方式の変更により居住性と取り回しの良さを実現した。ボディタイプは4ドアセダンと3ドアハッチバックへと変更されている。
搭載されているエンジンは、1.5L直列4気筒ガソリンをはじめ、1.5L直列4気筒ディーゼルエンジン。1.5L直列4気筒ターボ、1.6L直列4気筒DOHCなどを追加した。また、トランスミッションは1986年にコンピューター制御の5速AT「NAVi5」を搭載するなど注目された。
1987年のマイナーチェンジでフロントマスクを大きく変更。つり目と呼ばれるフォグランプ一体型のヘッドランプを採用。フロントグリルのデザインも変更されている。そして、この時にFFという冠が取れてジェミニと改名した。
2代目ジェミニはドイツのチューニングブランドである「イルムシャー」やイギリスのスポーツカーメーカー「ロータス」が手がけた「ZZハンドリング・バイ・ロータス」をラインアップするなど走りに磨きを掛けたモデルも用意されていた。
そして1989年に2度目のマイナーチェンジを行い、外観が変更された。モデルラインナップも豊富で、イルムシャーやZZハンドリング・バイ・ロータスといったスポーティモデルをはじめ、キャンバストップを採用するC/Cユーロルーフなど個性的なグレードを用意していた。
そして1990年3月にフルモデルチェンジを行い、3代目ジェミニへとスイッチした。1992年10月期決算においても再び大幅な経常赤字を記録したことによって、資金回収の目処が立たない乗用車生産から撤退し、ジェミニの自社生産も1993年7月限りで終了となった。
■2代目ジェミニの流通台数はたったの2台!
現在、ジェミニの中古車は約16台流通していて、最も多いのが1990年~1993年まで販売された3代目モデルの7台。次いで初代モデルの4台。そして2代目が3台となっている。
価格帯は初代モデルの後期型が最も高く、約130万~約260万円。2代目は約18万~約67万円。そして3代目は約38万~約130万円だ。3代目ではスポーティモデルのイルムシャーが流通していて、高値をキープしているが、2代目は標準モデルしかない。
そして、流通しているのは1987年のマイナーチェンジ後のモデルのみで、前期型は現在の時点で、全く流通していない。TV-CFで話題となった2代目ジェミニだが、中古車としては人気薄なうえ、流通台数が減少しており、絶滅の危機に瀕している。もし、狙っている人はじっくりと時間を掛けて探すしかない。
■ジェミニZZ ハンドリング by ロータス 3ドア 主要諸元
全長:3995mm
全幅:1615mm
全高:1370mm
ホイールベース:2400mm
車重:950kg
エンジン:直4DOHC
総排気量:1588cc
最高出力:135ps/7200rpm
最大トルク:14.3kgm/5600rpm
トランスミッション:5MT
10モード燃費:13.0km/L
サスペンション:ストラット/トレーリングアーム
価格:155万1000円
※グロス表記
■ベストカーテストデータ
0〜400m加速:15秒88
0〜100km/h加速:7秒71
最高速:185.8km/h
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