今のクルマにはないスタイルや乗り味で最近もファンが増えている“旧車”。そんなちょっと古いクルマ好きは「旧車のほうがカッコいいだけじゃなくて、走らせても楽しい」という声もあったりする。
でも、昔のクルマのほうが楽しいって、現在のクルマよりもハンドリングがいいってことなの?
ハンドリングといえば、国産車は特に1990年代に力を入れたスポーツモデルがいろいろ登場したが、その頃の国産車のハンドリングに比べて現代のクルマは進化しているのか? クルマで走る楽しさを追求している自動車評論家の斎藤 聡氏が解説します。
文/斎藤 聡 写真/ベストカー編集部、トヨタ、日産
【画像ギャラリー】旧車のほうが楽しい!? ハンドリングの変化と楽しく走れる歴代の名車たちを見る
■1990年前後はスポーツカーによる百花繚乱の時代だった!
1989年から1990年代前半は各メーカーから刺激的なスポーツカーが発売された、にぎやかできらびやかな時代でした。
いま旧車がディープなクルマ好きに人気なのだそうです。理由は、「旧車のほうがかっこいいし、楽しい」から。
そう言われると、旧車のほうがハンドリングがよかったの? とか、もしかしてクルマのハンドリングは1990年代から進化していないの? と思われるかもしれません。
実際、日産では1980年代後半に901(キュウマルイチ)運動というのを展開していました。これは1990年までにクルマ作りで世界一を目指そうという目標のことで、エンジンやシャシー、サスペンション、そしてハンドリングの品質向上を図ったのでした。
1989年に登場したZ32フェアレディZ、R32スカイラインGT-Rはまさに901運動を代表するクルマだったわけです。
もちろん日産だけでなく、世界に誇るスポーツカーを作ろうという機運が高まっており、ホンダからはNSX、トヨタはスープラ、三菱からはGTO、マツダからユーノス・コスモ。さらにはWRC制覇を狙って開発されたランエボ、インプレッサというハイパー4WDが登場しています。
文字どおり百花繚乱の時代でした。
■操縦性は途切れることなく進化している
では操縦性もこの時代のほうが優れていたのか、といえばそんなことはありません。クルマの操縦性には「解」があるわけではなく、より優れた操縦性を求めて途切れることなく進化を続けているものだからです。
1990年代のクルマに乗って、今のクルマと明らかに違いがわかるのはボディ剛性だろうと思います。
1990年代後半くらいからでしょうか、クルマの衝突時の安全性がクローズアップされるようになり、衝突試験による障害地計測と評価が行われるようになりました。衝突試験によって、ボディ剛性を上げると、乗り心地や操縦性がよくなることが明らかになってきたのです。
そんなことずっと前からわかっていたことじゃないの? と思われるかもしれませんが、実はそうでもなかったのです。
いままで無駄だと思って軽量化されていた骨格の一部を衝突試験のために頑強にすると、乗り心地がよくなったり、操縦性がよくなるということが明らかになってきたのです。
■燃費重視がデザインの画一化を招く?
ではなぜ、旧車のほうがかっこいいとか面白い、あるいは楽しいと思うクルマ好きが多くいるのでしょうか。
まずはデザインに関してですが、1990年代前後海外のメジャー自動車デザイナーが日本のクルマのデザインを手掛けていたというのがひとつ。また、当時はまだ空力性能がそれほど重要視されていなかったため、クルマのデザインに自由度が大きかったことが挙げられます。
近年のクルマは、エクステリアデザインもさることながら、空力性能がとても重視されています。燃費に大きく影響を与えるからです。それを踏まえてコンピュータを駆使してデザインすると、どうしても似たようなデザインになってしまうわけです。
独創的なデザインのクルマが少なくなったのには、そうした背景もあるわけです。
特に1980年代後半から1990年代前半はスポーツカーが脚光を浴びた時代。スポーツカーは個性が命なので、より個性的で感覚的にかっこいいと思えるデザインが採用されていたということも大きな理由なのであろうと思います。
■感じかたは人それぞれ
操縦性については、「いい」と「面白い」は別の評価軸にあるということです。
クルマは人が操るので、より人が関与する領域が多いと、面白いと感じる傾向にあります。マニュアルミッションであったり、横滑り防止装置のないクルマのアクセルコントロールであったり、曲がりにくいクルマでドライブテクニックを駆使して曲げる操作だったり、という面です。
普通に乗るには乗りづらいかもしれないけれど、それが一部マニアの人にとっては無上に楽しいことだったりするわけです。
旧車の運転が面白いのはボク自身も共感するところですが、最新のクルマも面白かったり深かったりするクルマはたくさんあります。むしろクルマの操縦性についていえば飛躍的に進化しているといっていいと思います。
■イージーさに隠された現代のクルマの深さ
ロードスターは1989年にユーノスロードスターとして登場。
ライトウエイトFRスポーツとして爆発的に人気を博したスポーツカーですが、現在のマツダロードスターに乗るとエンジン、ボディ、サスペンションすべてが洗練されながらクルマとの一体感、コントロールする面白さは少しも薄れていません。面白さを損なわずに乗りやすくなった好例でしょう。
また、シビックタイプRに乗ると、シャシー性能の格段の進化を実感します。かつて150馬力程度でもパワーを持て余していたFF車ですが、シビックタイプRは300馬力を軽々と受け止め余すことなく路面に伝えることができるのです。
FRではスカイライン400Rもシャシー性能の進化によって安定性とコントロール性を手に入れたFRスポーツといえると思います。
このほか、レヴォーグやマツダ3も楽しさという点で注目に値するクルマだと思います。
パワーは突出していませんが、ステアリングやアクセル操作に対する応答の精度が高く、ちょっと加速したい、スイッと曲がりたいといったドライバーの意図が面白いようにクルマに伝わるので、クルマとの一体感を楽しむことができるクルマとして挙げられると思います。
ビギナーからベテランまで誰でもイージーに運転できてしまう今のクルマですが、ちょっとだけ真面目にクルマに向き合ってみると、今のクルマの奥行きや深さが見えてくると思います。
■運転スキルが上がればさらに楽しく!
では今のクルマは面白くないのかと言ったら、決してそんなことはありません。マニアの人であっても車種によってはしびれるくらいの楽しさを感じることはあるのです。
操縦フィールについていえば、今のほうが格段に洗練されています。ボディ剛性が上がり、運転操作に対する応答の正確度が格段に高くなっているので、例えば微小舵領域の繊細なステアフィールは街中で走らせていても心地いいし、超高速で走ると圧倒的な安定感や安心感として感じ取ることができます。
クルマ自体の懐が深くなった分、ラフな運転でも受け止めてくれるので一見すると退屈と思われるかもしれませんが、精度の高い操作を行うとクルマも精度の高い応答を見せてくれます。
特にスポーツカー、スポーティカーではクルマとの一体感を楽しむことができると思います。ビギナーからベテランまで誰でも運転できてしまう今のクルマですが、運転スキルが上がるほどに奥行きや深さが見えてくるのです。
【画像ギャラリー】旧車のほうが楽しい!? ハンドリングの変化と楽しく走れる歴代の名車たちを見る
投稿 昔は楽しかった!? 1990年代からハンドリングは進化したのか? は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。