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ローバー ミニクーパー ヒストリー|1.3キャブクーパーから1.3インジェクションモデルへ…series2-第2回

森川オサム氏 スペシャルインタビュー

森川オサム氏は70歳。ローバージャパン当時はマーケティングを担当。現在はメディアに寄稿しつつ、プランナーとして活躍する。今年のモンテカルロにはフェアレディで参戦した。

小さな英国のこれまでのシリーズはこちら

 そういった条件を察しつつ1300ccとなったクーパーのキャブレータ限定モデルの登場、レギュラーモデル化。そして、インジェクションモデルのデビューへと時系列で史実を組み立てていくと、マニアが喜んだキャブ・クーパーの存在は、かなり幸運な運命の噛み合わせだと思ってしまう。ミニ史の終盤でこういったラッキーが存在していたことも奇跡のクルマと呼ぶにふさわしいのかもしれない。

 とにかく、インポーターとしてはたくさん売らなければいけない。できる限り、モデルストーリーはポジティブにしたかったこともある。そこに“クーパー・ストーリー”といったミニの秀逸なヒストリーがひと役買った、ということだ。
 キャブレータ・クーパーにノスタルジックな想いを馳せたミニ・ファンの目線とメーカーやインポーターの目線とでは大きな隔たりがあった。とはいえ、結果的には『クーパー復活』のキャッチコピーとともに、限定モデルとしてセンセーショナルなモデルデビューを果たし、大きな人気を得たのは間違いのない事実。発表後、日本に割り当てられた600台は瞬く間に完売し、発売日前に予約で売り切ってしまったこと。そして、限定モデルからわずか二ヶ月でクーパーはレギュラーモデルにラインアップされ、モデルスペックが継続されたことが物語っている。

「もしもキャブレータのミニがエミッションコントロール上で問題がなければ、併売していましたよ。間違いなく……。それが叶わなかったのは、もう時代的にメーカーリリースの車輌にキャブを使うことはできなかったんですよ……」

 さてもうひとつ、1300ccのキャブレータモデルを話すときに忘れちゃいけないのが『ローバーミニERAターボ』の存在。実にユニークなポジショニングのモデルである。

「メトロターボのパワーユニットをミニに押し込んじゃったというモデルですよね」と森川氏はいう。ミニの後継モデルとしてラインアップされていたローバー・メトロ。後のローバー100に通じるモデルで、パワーユニットはミニと同系統だった。前出のクーパー1・3もERAターボもメトロがあったからこそ登場できたのは否めないのである。それはさておき、モデルのあらましはこうだ。

 排気量1271ccのキャブターボ。ギャレットGT3タービンが装備されていた。オイルクーラーやサブラジエータを装備するミニ史上初のターボモデルである。13インチホイールと強烈なエアロボディパーツが特徴的。インテリアも凝りに凝ってコノリーレザーを用いたスペシャル。日本仕様にはインダッシュクーラーも装備されていた。

 社名に冠されたERA(正しくはE.R.A.だな)というのは『エンジニアリング・リサーチ・アンド・アプリケーション』の頭文字。エンジンシステムの開発やテスト機関として活動をする組織だが、旧く創立当時はイングリッシュ・レーシング・オートモービルズ(Eng lish Racing Automobi les)社とされ、いわゆるレーシングコンストラクタだった。

 そのカスタマイザーがメーカーにプレゼンテーションして実現したモデルなのだろうか? それとも開発を依頼したのか、さらには、モデルの発売にあたってメーカーの方針でさまざまなストーリーが付加されたのか……。正直なところ編集子としては長らく明快な解答が得られなかったものだ。この機会に質問である。

「あれは完全にメーカー経由のプロダクションですよ。ERAに開発依頼をしたのでしょうね。最終的には生産ラインで車輌を作っているので、排ガス検査を含めてローバーが量産車としてアジャストしたと思いますよ。当時ジャパンも本国ローバーグループから輸入していましたから」

 なるほど。だとするならばERAターボの開発資料や多くの文献にあるように’80年代から’90年代に向かう時代の“ミニクーパーSの後継車”という開発オーダーが本当にメーカーからERAに対して成されたのだろうか。製作の条件は、ひと目でミニのエボリューションモデルと分かる佇まいであること、ローバーグループに現存の資産を使うこと……とか。想像は広がる。

 本国ではブラック、ホワイトダイヤモンド、フレームレッド、ブリティッシュレーシンググリーンの4色、100台が販売された。我が国には『RJ』ナンバリングで337台が輸出されたとなっている。ボディカラーは赤とグリーンの2色のみが正規で販売された。

「広報車を5台用意して慣らしをしなきゃいけないというので手伝ったんですよ。土砂降りの旧山手通りを走り出して、全開走行。2速から3速にスポンッと入れたら一車線右に飛んだんですね、思わずウォーッて(笑)。それら5台をプレス試乗会に持ち込んだけれど、初日で3台のエンジンが潰れちゃったんです。それは、もともとタコメータにレッドゾーンが描かれていなかったから。ブリーフィングはしているはずだけど、リミッターもなかったようだし……。その晩、赤いビニールテープでレッドゾーンを急造したのを覚えている。いまだに当時の旧友と会うとその話になるなぁ(笑)」

 ミニのストーリーには節目になる年がいくつかある。1990年も間違いなくそのひとつだし、この2モデルは立役者なのである。これほどに尖ったモデルが’90年代初頭に存在していたこと、そして、英国本国の販売数を超える台数が日本に来ていたことは、ミニのヒストリーでもインジェクション前夜、珠玉の話題だと編集子は思っているのだが、いかがなものだろう。
 さて、続くインタビューでは電子制御フューエルインジェクションの登場や’90年代にリリースされた限定モデルについて話を聞いてみたいと思う。

パワーもさることながら、スタイリングはマッチョ、インテリアは超ラグジュアリーと通常のサルーンとは一線を画するソペシャルモデル。価格も超弩級の359万円! 300数十台を売り切るまでに3年以上費やした。佇まいは後のスポーツパックに通じるものがある。
日本モデルはクーラーが標準装備されていた。
コノリーレザーを使ったトリム、8連メーターは秀逸。

小さな英国がニッポンに来た…series2 終


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