ストックヴィンテージ オリジナル鍛造ピストン+20
「新車当時のエンジンコンディションを永く維持する」ことを目的に開発されたオリジナルピストンは、エネルギーロスだけでなく、エンジンの長寿命化のためにさまざまな工夫が施された「最高のリペアパーツ」なのだ。
ミニのエンジンが持つ弱点を克服し「理想の爆発と長寿命を実現することで、新車当時のエンジンコンディションを永く維持すること」をコンセプトとしたストックヴィンテージのオリジナルピストンであれば、エンジンの長寿命化はもちろん、思わぬパワーアップも期待できるのだ。
ロスが大きいミニの燃焼室形状を改善
望月和久さんのミニを取材するにあたり、ストックヴィンテージの田中代表に、今回のチューニングで大いに効果があったという同店が開発した「オリジナル鍛造ピストン+20」についてお話を伺った。
田中代表によれば、新車当時のエンジンコンディションを純正品にかわる「ノーマルエンジン」に向けて開発されたとのことだが、写真をご覧いただくとわかる通り、ピストントップのディッシュが非常に特徴的な形状をしている。
「ディッシュのハート形状ですが、実はこれ、ヘッドのバルブ形状をそのまま反転した形になっているんです。まず、ミニのエンジンの基本設計は、MkIから最終型まで、およそ50年ものあいだ更新されてこなかったため、非常にロスが大きい構造となっています」
田中代表によれば、同排気量の現行車と比較したときのパワーの違いを見ればわかるとのこと。確かに、エンジンだけのパワーを見ても、同排気量はおろか、半分もない軽自動車でさえ、ミニでは及ばないことがあ
「このような違いの大きな要因として、点火プラグの位置とディッシュ形状にあります。通常、現行車であれば、点火プラグはピストントップの中心に向けて、真上から差し込まれています。ここで通常のディッシュ形状であれば、発火点からピストントップの隅々までの距離が均一になるため、面に対してタイムラグがなく混合気が燃焼します。しかし、ミニの場合はピストントップの中心から斜め上の位置に差し込まれるため、たとえディッシュ形状であっても、最も距離がある体格の位置が直下に比べ遠くなります。これにより、ピストントップに最初の燃焼が到達する時点で未燃焼ガスが残っていることになるので、取り入れた混合気から得られるはずのエネルギーをロスしていることになります。さらに、未燃焼ガスが爆圧で圧縮されることで二次爆発(デトネーション)を引き起こすので、スムーズなピストン運動が妨げられることで、パワーロスやフリクションの原因につながります」
このオリジナルピストンでは、ディッシュ形状を最適化によってシリンダー内の混合気をムラなく燃焼させることで、混合気から得られるすべての力でピストンを押し出せるのだという。一方で、解決策としてフラットピストンを使用した場合でも、圧縮が高くなりすぎるため、やはりデトネーションを引き起こすことがあるという。
「また、純正ピストンの場合は上死点に達したとき、ピストンの縁とヘッドのあいだに隙間(=スキッシュクリアランス)が生じます。ここには未燃焼ガスや排ガスが溜まることで、残留ガスやデトネーションによって負圧が低下し、充分な混合気が取り込めません。実は、ここに現行車とのパワーの差が生じているんです。現行車では先に述べたように充分な燃焼と正しい排気によって、混合気の充填率が80%に達しますが、ミニの場合はこうした理由で50%程度しかありません。ですので、オリジナルピストンでは、このクリアランスを埋めるためにハイトを0.5mm高くしているほか、ディッシュも10cc分深さをもたせています。効率的に混合気を取り込むには、正しい燃焼と排気が欠かせないんですよ」
田中代表
「ミニのパワーアップは、コンディションを整えることでロスを減らし、最大限のパフォーマンスを引き出すことがいちばんの方法」と語る、SV田中代表。同店からリリースされるパーツはサーキット向けの印象が強いが、実はいずれも快適な街乗り仕様を目指して開発されているのだ。
2019.4月号より