新型トヨタ86/スバルBRZなど、バリバリの新世代モデルも人気を集めているが、それと同時に「ちょっと古いクルマ」も今、かなりの人気となっている。
それらの「ちょっと古いクルマ」はヤングタイマーと呼ばれることが多いわけだが、ヤングタイマーというものに、何か正確で公式な定義があるわけではない。
戦前のクラシックカーや1970年代以前のかなりクラシカルなクルマのことをまとめて「オールドタイマー」と呼ぶのに対応して、1980年代から90年代頃の「さすがにクラシックカーと呼ぶほどではないクルマ」のことを、多くの人がざっくり「ヤングタイマー」と呼ぶようになったわけだ。
まぁ言葉の定義はどうでもいいとして、近年になってヤングタイマーな各車が人気を集めている理由は、「1970年以前のヴィンテージカーだとエアコンが効かなかったり、メンテナンスが死ぬほど大変だったりもするが、ヤングタイマーなら(ある程度)ちゃんとエアコンが効き、故障の問題も(まったくないわけではないが)さほどシビアではないから」というあたりが、表層的なところではあるのだろう。
だが根本的な理由は「人は“生きている実感”あるいは“身体性”を欲する生き物だから」という類のものであるはずだ。
現代のクルマ――たとえば筆者が乗っている2020年式のスバルレヴォーグというクルマは大変に便利で、本当に素晴らしい乗り物だと思っている。だが同時に「コンピュータに乗せられている」というか「操られている」というか、そういった感覚がつきまとうことも事実である。
普段はそれもまた良しとして、気にせず(というかむしろ大満足して)レヴォーグに乗るわけだが、時おり業務で1980年代頃のクルマに乗ると、その小ささと猛烈なダイレクト感に、そして電子制御が皆無あるいは少ないという点に――つまり「身体性が強い」という点に、身も心も大感動を覚えるのだ。
ヤングタイマー各車が備えるこの身体性を、筆者のようなおっさん世代は「懐かしい!」と感じ、若い世代は「新鮮!」と感じる。だからこそヤングタイマーは今、昔を懐かしむ中高年世代だけでなく、若い世代の心をもがっちりとらえているのである。
……なんて分析も本当はどうでもいいのだが、まぁ以上をなんとなく踏まえたうえで、今注目したいヤングタイマー5車種をピックアップしてみよう。
文/伊達軍曹
写真/トヨタ、日産、ホンダ、いすゞ、VW
【画像ギャラリー】人車一体の走りが味わえるヤングタイマー特集
■ホンダビート/人車一体感が楽しい軽オープン2シーター
●販売期間:1991年5月~1996年12月
●中古車相場:40万~300万円
多くの説明は必要ないだろう。1991年に発売された専用設計のミドシップレイアウトを採用したピュアスポーツな軽2シーターオープンである。
自然吸気の軽自動車用エンジンとしては唯一、自主規制値だった最高出力64psをマークし、しかもその出力が発生するのは8100rpmという超高回転域。そのほかもろもろのホンダF1テクノロジーが注入された不世出の名車だ。
そしてその乗り味は、まさに「身体性の権化」である。
まず何よりボディサイズが「人間のサイズ」に近いため、運転中は機械を操作しているのではなく、まるで自分の肉体が拡張しているかのような錯覚を覚える。
そして、当然ながら絶対的な速度はさほど速くないわけだが、しっかり整備された個体であれば、その走りはまさに自由自在。のんびり流しても気持ちいいし、ビシビシかっ飛ぶのも最高である。
ビートの末裔である「ホンダS660」も素晴らしい軽オープン2シーターであることには変わりがなく、というか諸性能は(当然ながら)S660のほうが断然上だ。しかし、こと「生きている実感が湧く」という生の歓びを感じたい場合には、ビートこそを選ぶべきろう。
中古車の価格は下から上までかなり幅広いが、車両価格100万円以上の線で探せば、まずまず良好なベース車両と出会うことができるはずだ。
■トヨタセリカ GT-Four(ST205)/WRCのイメージが強いスペシャルティ
●販売期間:1994年2月~1999年2月
●中古車相場:150万~400万円
1993年10月に登場した6代目のセリカをベースとする4WDターボモデルである。FFモデルに遅れること4カ月の1994年2月に発売された。
2Lターボエンジンはターボチャージャーの性能向上と給排気系の改良などにより、先代(ST185)比で30ps増の最高出力255ps/31.0kgmになるとともに、広い回転バンドで高トルクを発生する特性となった。
世界ラリー選手権(WRC)参戦の公認を取得するために作られたのは、2500台限定(国内向けは2100台)の「GT-FOUR WRC仕様車」。旋回時のグリップを大幅に高める「スーパーストラットサスペンション」を採用したST205型ベースのグループAラリーカーは、1994年シーズン途中のラリー・オーストラリアから出場した。
まぁ先代と比べて大きく重くなったST205のラリーカーは、ほかにもいろいろな事情があってWRCでは苦戦したわけだが、「WRCで戦った」という神話性と、この素敵なビジュアルは永久に不滅である。
そして今乗ってみると、新車時は「肥大化した」だの「デブった」などと言われたST205だが、今となっては「可憐なサイズで非常に軽快な、ほどほどのパワーがむしろ好ましいスポーティクーペ」である。
2021年の感覚からすると取り立てて速いわけではないのだが、サイズを含めたすべてがほどよく、「アマチュアの手にも負える感じ」が超絶好印象なのだ。
なお筆者は未試乗であるため「オーナーから聞いた話」でしかないのだが、4WDターボではない普通のFFのT200型セリカも、非常に軽快でほどよいニュアンスであるらしい。WRCに特に思い入れがないのであれば、FFも含めて(あとはカレンも含めて?)柔軟に中古車を探してみるのが正解だろう。
■いすゞ ピアッツァ/G・ジウジアーロの歴史的名品
●販売期間:1981年6月~1991年8月
●中古車相場:100万~160万円
名車「いすゞ 117クーペ」の後継として1981年に登場したクーペタイプの小型乗用車。デザインを担当したのは、117クーペと同じく巨匠ジョルジェット・ジウジアーロだ。
当時の国産車といえばエッジが立ったデザインが主流だったが、ピアッツァは曲面を多用した優雅かつ斬新なデザインを採用。またフラッシュサーフェス処理も先進的で、ウインドウまわりを中心に、ボディ表面の凸凹は極力排除されていた。
ピアッツァは内装もジウジアーロのデザインが忠実に再現され、上級グレードのXEには「デジタルメーター」を標準装備。またそれ以外のグレードにも、メーターナセルの両脇に操作系を集中させた「サテライトスイッチ」を設置。右手側にライトスイッチなど11項目、左手側にワイパーなど13項目の操作スイッチを集中させることで、ステアリングから手を離すことなく大抵の操作ができる作りになっていた。
駆動方式はFRで、当初の搭載エンジンは直4のG200型。上級グレードのXEにはジェミニZZ用1.8L DOHCを1.9Lに拡大したDOHCが搭載され、それ以外のグレードには117クーペ用2L SOHCを改良したユニットが搭載された。そして1984年6月には最高出力180psの2L SOHCターボを追加している。
ピアッツァに関しては、この「セピア色の未来」が気に入って仕方ないのであれば、もう買うしかないだろう。ジウジアーロ先生による傑作デザインだけでなく、小ぶりなサイズそのものも、現在の車では絶対に味わえない魅力のひとつだからだ。
とはいえ流通台数はもはやかなり少ない。購入希望者には、ピアッツァを得意とするごく一部の専門店の物件情報を、日頃からこまめにチェックすることをおすすめしたい。
■日産 レパード(F31型)/『あぶない刑事』を見ていた世代には懐かしい!
●販売期間:1986年2月~1992年5月
●中古車相場:130万~550万円
……これはもう「あぶデカ」である。ドラマ『あぶない刑事』がお好きなら、ぜひ前向きに検討してみたいヤングタイマーだ。
F31こと2代目の日産 レパードは、トヨタ ソアラの競合として登場した2ドアクーペ。冒頭の余談のとおり、テレビドラマ『あぶない刑事』のなかでタカ(舘ひろし)とユージ(柴田恭兵)が乗る捜査車両としても大人気となった一台だ。
プラットフォームなど基本設計はR31型スカイラインと共用で、前期型の搭載エンジンは国産初の3L V6DOHCのVG30DE(185ps)を頂点に、2L V6インタークーラーターボのVG20ET(155ps)、2L、V6自然吸気のVG20E(115ps)の3タイプが用意された。トランスミッションは前期型のVG20E搭載グレードに5MTが設定され、それ以外は4速ATのみという設定だった。
1988年のマイナーチェンジで後期型となり、3L、V6DOHCセラミックターボのVG30DET(255ps)を追加。そして2Lターボは155psのVG20ETから、最高出力210psのVG20DETセラミックターボに変更された。
このクルマは性能や乗り味ウンヌンでホレるものではなく、この世界観……、つまり合理化こそが正義とされる現在とはまったく異なる、バブル期ならではのムードにどっぷり浸りたい人が選ぶべきヤングタイマーと言えるだろう。
そしてこのエクステリアデザインも、男がピカピカのキザでいることを許容しない現代にあっては、なんとも魅力的に映るものだ。
■フォルクスワーゲン ゴルフ(2代目)/シンプルこのうえなく最新モデルにも引けをとらない
●販売期間:1986年2月~1992年5月
●中古車相場:130万~550万円
最後に輸入車から1台を選んでみたい。「今注目すべきヤングタイマー」といえば、コレを取り上げないわけにはいくまい。今や8代目が発売されたVWゴルフの2代目モデルである。
今ではゴルフも全長4295×全幅1795×全高1475mmという立派なサイズになったわけだが、ゴルフIIのそれは全長3985×全幅1665×全高1415mmで、車両重量も1トンちょいでしかなかった。
そして当然ながら48Vマイルドハイブリッドもデジタルコクピットプロも、何もない。あるのは四角四面のシンプルな車台&ボディと、SOHCのシンプルなガソリンエンジンだけだ(※DOHCのGTIやディーゼルもありましたが)。
それなのに……このクルマを運転する際の「感動」は、最新世代のゴルフ8にまったく引けをとらない。
いや、もちろん動力性能や安全性能、快適性などに関しては引けをとりまくりだが、「自分で機械を操作しながら、どこか遠くまでハイスピードで移動する」という自動車の根源的な魅力を味わううえでは、シンプルきわまりない作りである30年以上前のコレのほうが、ひょっとしたら上なんじゃないか? と感じる瞬間があるのだ。
すっとぼけた感じの3速ATもなかなか味があるとは言えるが、できれば5MTのゴルフIIを手に入れ、それをビシッと整備しておけば、快適性と安全性は劣るが、実用性と官能性という面ではゴルフ8にも決して負けないというか、部分的には勝る瞬間に、思わず口笛を吹いてしまうだろう。 現代の大げさなクルマに飽き飽きしている人にはぜひお薦めしたい、上等な素うどんのようなヤングタイマーである。
【画像ギャラリー】人車一体の走りが味わえるヤングタイマー特集
投稿 ヤングタイマーが熱い! 今乗っておきたいちょっと古いクルマ5選 は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。