最近、フロントマスクよりも、リアスタイル、テールランプのほうが個性的なクルマってありますよね。
例えば、2021年末にもデビュー予定の新型フェアレディZ。初代フェアレディZを彷彿とさせるフロント回りもインパクトがありますが、Z32型をモチーフにしたテールランプも、フロントマスクに負けるとも劣らぬ個性的なデザインだとは思いませんか?
そのほか、ざっと過去のクルマを思い浮かべると、セリカリフトバック、ブタケツローレル、チェリーX1-R、輸入車では、テールフィンの1959年式キャデラック、ボートテールの1966年式アルファロメオ デュエットスパイダーなどなど。
そこで、モータージャーナリストの清水草一氏に、フロントマスクよりもテールランプが個性的で強烈なクルマを挙げてもらって、解説する。
文/清水草一、写真/ベストカー編集部、キャデラック、日産、マツダ、トヨタ、マセラティ、アルファロメオ、BMW、シトロエン、ジャガー
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■過去、現在のすべてのクルマから個性的なテールランプのクルマを選ぶ!
本企画担当から電話がかかってきて議論を吹っかけてきた。
担当「新型フェアレディZのテールランプはZ32型をモチーフにしていて、フロントマスクよりも個性が光るデザインですよね」
清水「そうは思わないね。形としてはごく真っ当な横長タイプだし、Zの個性はむしろ“どーもくん“みたいなフロントマスクにある。テールランプが個性的なのは、現行Zのブーメラン型のほうじゃないの」
担当「あれはあまり魅力的じゃないでしょう」
清水「その通り。個性的ならいいってもんじゃないってことだよ」
担当「じゃ、個性が光るテールランプって、どんなクルマですか?」
というわけで、実例を挙げろと言われてしまった。しかも史上すべての自動車から選べと。ヒエ~!
■キャデラック エルドラド(1959年)/航空機を想わせる栄光の象徴、テールフィン
テールランプの個性が光るといえば、1950年代アメ車のテールフィンにとどめを刺すだろう。その究極の姿が、1959年のキャデラックエルドラドだ。
テールフィンを最初に付けたのは、1948年のキャデラックで、この時は「双胴の悪魔」と呼ばれたP-38戦闘機(双発プロペラ機)のテールがモチーフ。
かなり控え目なものだったが、ジェット時代に突入すると、アメリカの工業デザインは「ジェットブーム」となり、スピード感ある形状が大人気となる。それに歩調を合わせて、テールフィンもジェット機型に巨大化。
そのなかでも最も派手な1959年のキャデラックに行き着くのだ。そのテールランプは、ジェット噴射口とジェットの炎の形そのもの。これ以上個性が光るテールランプもないだろう。
■マツダ R360クーペ(1960年)/小さいテールフィン
このムーヴメントは日本にも多大な影響を与えた。初代クラウンには小さいながらにテールフィンがあった。今見ても超キュートでカワイイのは、マツダR360のテールランプだ。
これもテールフィンの流れなのだが、その小ささ、控え目さは、日本人の謙譲そのもの。R360はフォルム全体が個性のカタマリだが、コロンと丸まったテール形状にも強く引き込まれるし、小さなテールランプも個性が光っている。
■日産 チェリークーペ(1971年)/噴射口を思わせる丸形2灯ヘッドランプ
1971年に登場した日産 チェリークーペのテールも超個性的だ。セミファストバックとも呼ばれるこの異様に盛り上がった背中、富士山をモチーフにしたといわれるCピラー、そして噴射口を思わせないでもない丸型2灯のテールランプは、どこか1950年代アメ車の面影がある。
■2代目日産 ローレル(1972年)/ブタケツローレル
翌1972年の2代目ローレルは「ブタケツ」「カンオケ」と呼ばれ、改造車のベースとして人気だったが、全体的にアメ車の影響が強く、持ち上がった「ブタケツ」もテールフィンの名残り。
テールランプはオーソドックスな横長タイプだが、位置が低いので個性的に見える。実にインパクトのあるテールランプである。
■初代トヨタ セリカリフトバック(1973年)/縦型3灯×2で個性を主張
セリカリフトバックは、1970年に登場した初代セリカクーペ(だるまセリカと呼ばれた)が登場してから2年半が経った、1973年4月に発売された追加モデルだった。リフトバックはトヨタ独自の呼称で、一般的にはファストバックと呼ばれている。
リフトバックのテールランプは、縦長形状が左右に3つずつ並んだ個性的なものだった。こちらのモチーフは初代フォード マスタングだ。マスタングは現在でもこの形状を守っている。
■日産 レパードJフェリー(1992年)/尻下がりでイルカのようなフォルム
尻下がりデザインで大不評を買ったレパードJフェリー(1992年)のデザインは、歴代キャデラックなどが採用していた尻下がりフォルムがモチーフになっている。
当時の我々には「ウゲェ!」以外の何物でもなかったが、30年経った今は、流麗で美しいテール形状に見える。左右が連結されたシャープなテールランプも個性が光っている。
■2代目トヨタ クラウンマジェスタ(1995年)/ネコ耳型の縦型テールランプ
2代目クラウンマジェスタ(1995年)の取ってつけたようなネコ耳型縦長テールランプは、決して個性が光っているとは言えないが、これまた当然アメ車がモチーフ。テールフィンから続くアメリカンなテールランプは、1990年代まで世界にその影響を残したってことですね。
アメ車系テールランプから離れると、「個性が光るテールランプ」は意外なほど希少になる。個性的なヘッドライトはいくらでもあるが、テールランプは多くのクルマが定番を守っているのだ。
■R34型日産 スカイラインGT-R(1999年)/伝統の丸型4灯テールランプ
そんななか、異彩を放っているのは、R34GT-Rだ。テールランプはスカイライン伝統の丸型4灯なので、厳密には「個性が光るテールランプ」じゃないけれど、そのテール形状は見事なほどスパッと切り落としたコーダトロンカ。
しかも上に微妙に湾曲しつつ切り落としてあり、デリカシーのカケラもない。それが野蛮なまでの力強さを生んでいる。コーダトロンカはジェット機のジェット噴射口であり、丸型4灯はその炎なのである。
■現行トヨタ プリウス前期型(2015年)/クリスマスツリー型で個性的だったが不評で改良
近年の国産車で最も個性的なテールランプは、現行プリウス前期型のソレだ。点灯していなければ縦長異形で、それほど個性的ではないけれど、点灯すると細いLEDがクリスマスツリー(稲妻型?)のように浮き上がり、その未来的な美しさに見とれる。
前期型プリウスはフロントフェイスが世界的に不評で、マイナーチェンジ時にリアもごく平凡な形状に変更されてしまったが、個人的には「惜しい!」と思ったものだ。
■マセラティ 3200GT(1998年)/ブーメラン型が不評で扇型へ
欧州車は伝統的にテールランプが小さめで、その形状で個性を競うことはまれだったが、記憶に鮮明なのはマセラティ3200GTのブーメラン型テールランプだ。形状は非常にシンプルで、さすがジウジアーロ! という感じだが、ジウジアーロ本人は当初オーソドックスな楕円形を提案。
それをマセラティ側の要求で個性的なものにチェンジしたというから皮肉だ。しかもこのブーメランが個性的すぎて不評で、後期型はオーソドックスな扇型に変えられてしまった。そのあたりの経緯は、現行プリウスに似ていると言えなくもない。
■アルファロメオ ジュリエッタ(2010年)/ひと筆書きの線香型
アルファロメオ創立100周年にあたる2010年のジュネーブショーでデビューした(日本は2012年)ジュリエッタの蚊取り線香型テールランプも、プリウスの稲妻同様、点灯するとくっきり浮き上がる。そして我々を魅了する。シンプルでありながら実に個性的で、文字通り光っている。
残念ながら現行ジュリエッタは2021年中に生産を終えることが発表されている。
■BMW i8(2003年)/スーパーカーデザインの傑作
BMW i8のテールランプは、その上部のボディの切れ込みや全体形状により、キリッとした眉毛の下の目に見える。
お尻にも顔があるクルマはそれほど珍しくないが、i8のソレはとても表情豊かでユニークだ。全体としても、スーパーカーデザインの傑作のひとつに数えられるだろう。
■シトロエン C6(2005年)/アヴァンギャルドの極み
2005年にデビューしたシトロエン C6のテールランプは、リアのショルダー部に縦に湾曲して乗っかるという超個性的な位置にある。形状そのものはシンプルで小さいが、なんともシトロエンらしいアヴァンギャルドさに満ちている。まさにセピア色の未来といえるだろう。
■現行351型ジャガー XJ(2009年)/切れ長のツリ目型
間もなくEVに生まれ変わってしまうが、2009年に登場し、モデル末期を迎えたジャガーXJのテールランプは、切れ長のツリ目が印象的だ。立体的でしかも斜め傾いているので、見る角度によって微妙に形状が変わる。
複雑で有機体的ながらシャープな形状でもあり、上品そのもの。デザインはXK、XF、Fタイプ、そして、XE、Fペイス、Eペイス、Iペイスなど多くのジャガー車をデザインしてきたイアン・カラムの作品。これはもう芸術作品に近い。これぞ個性が光るテールランプの終着駅、という気がしないでもない。
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