エンジン不調の苦悩編、続きです。前回は起きたトラブル順に紹介しましたが、今回はもう少し俯瞰して眺めてみます。
最初にちょっと振り返りになりますが。
赤ミニでは1,000ccエンジンでロスをギリギリまで削って出力アップを重ねてきました。それはそれで楽しかったのですが、それでも排気量の差には勝てないという思いがありました。特にTBCCのように排気量の異なる車両で混走するような場合は厳しくて、どうしても無理してしまってクラッシュまで至ってしまったという反省があります。
そんな背景から、緑ミニのエンジン仕様を決める際に第一に考えたのはエンジンの排気量アップでした。その他は平均的な仕様でそこそこ楽に走れる状態をまずは作って、そこから段階的にロスを削っていこう、というチューニングシナリオを考えておりました。
エンジン仕様は、86mmロングストローク+73mmピストンの組み合わせで排気量1,440cc、ヘッドは一般的な5ポートながら効率を優先してビッグバルブのオフセット仕様とし、カムシャフトはレースで実績があるとされるパイパーの649を選びました。
排気量なりに期待したトルクは14kg・mで、そこから想定できる最高出力としては140PS程度、悪くても130PS台後半を期待していたのですが、シャシダイで測定した結果はトルクが13.1kg・m、最高出力が117PSという期待をかなり下回る値でした。筑波のバックストレートでの最高速は107PSだった赤ミニを下回る結果でしたので、実際には100PSそこそこしか出ていないのが現実かと思います。
なぜこんなにパワーが出ないのか?
まずは緑ミニの現状の立ち位置を明確にしてみました。
2019年度SBoM第2戦のリザルトから、参戦している全車両の排気量とバックストレートでの最高速度を抽出してプロットしました。横軸が排気量、縦軸が最高速度です。緑のプロットがミニ1000クラス、橙色のプロットがインジェクションクラス、赤いプロットがSBoM、モトおよびシルエットクラスです。
全体を眺めると右肩上がりで、排気量が上がるに従って最高速が高くなるという傾向が現れてます。「排気量に勝るチューニング無し」は全体の傾向としてその通りになってます。
その他の特徴としては、インジェクションクラスは右肩上がりの傾向の中にはあるものの最高速度は他のクラスに比べて全体的に低めで、インジェクションエンジンが出力を出しにくい現状がデータとして見て取れます。
ロングストローク仕様の車を黒で区別してみました。
一番右側の、大排気量の一群になります。
更に、マルチポートの車を白抜きのプロットで区別してみました。
多少上下はありますが各群の上位はマルチポート車であり、出力を出すにはマルチポート化は有利であることが分かります。
で、緑ミニはココです。右端の群の一番下、ロングストローク車の中のビリっけつですよ(涙)。
対策するのに先んじてまず必要なのは冷徹かつ定量的な現状把握ですので、血の涙を流しながらグラフを眺めております。
ちなみに今は亡き赤ミニをプロットすると左上の位置に来ます。今思うとずいぶん優秀な子でした。クラス最強はもとより、今の緑ミニよりも上に居ます。
5ポート仕様である緑ミニの解析をまずはしたいので、マルチポート車を削除して5ポート車だけにしてみました。
各群でもちろん上下にバラツキはあるのですが、各群の上端のプロット、つまり最高速度が高い車両に注目すると、おおよそ直線上に乗ってきます。ミニ1000クラスにこの傾向に乗らない車両がありますが、おそらく開示されている情報が違っているのではないかと想像してます。おそらく1300用のピストンと組合わせて1,200ccあたりの排気量になっているのではないかと。
話を戻しますが、この最高速が高い車両をつなぐラインは「現状で実現可能な最も高い最高速」のラインとなります。当然ロングストローク車の群もこのラインに届いて欲しいのですが、届いてないんですよね。ちょっと低めの所に固まってます。言い換えると、排気量なりに速くなって欲しいのに、速くなりきれてません。
たまたまこのレースで速い車両が居なかったのでしょうか? 僕はそうは思えないのです。
緑ミニのパワーチェック結果です。
最大トルク13.1kg・m、最高出力117PSとなってますが、納得いかないんですよね〜・・・ではなくて。
パワーチェックのチャートは出力だけでなく他にも色々なデータが現れてます。
パワーチェックの手順としては4速までシフトアップし、低回転から8000rpmまでWOT(Wide Open Throttle: アクセル全開)をかけるわけですが、その過程で測定されるのが「計測出力」で、これがタイヤから路面に伝わる実際の出力になります。
また、8,000rpmまでWOTをかけた後でアクセル全閉で回転が落ちてくる過程も出力(抵抗)を測ってまして、このマイナス側の出力が「損失出力」で、エンジン内部から駆動系までのメカニカルな抵抗による出力ロスを表してます。
ここで「計測出力」に「損失出力」を足した値が「補正出力」で、エンジンが発生した出力を表してます。
補正出力を回転数で割って求めたのがトルクです。
今回は、チャートの中の「最大トルク」と「6,000rpmでの出力損失」に着目してデータを集めてみました。
僕自身がデータを持っていればいろいろ解析が出来るのですが、残念ながら1,000cc以外のチューニングデータはほとんど持ってませんので、ネットで漁って集めました。猟場は主に某所沢秘密基地の工場長ブログです。
一般的にはチューニングの結果を比論する場合は「補正出力」に注目するのですが、補正出力はカムやヘッドの仕様で大きく変わるので横並び比較がしにくいです。そこで今回は「最大トルク」に注目しました。
トルク特性もカムやヘッドの特性に影響を受けるのですが、最大トルクだけは、いわゆる「最高効率点」なので他の仕様の影響を受けにくく、極論すると適切な圧縮圧力にさえなっていれば排気量なりの値になります。経験的にはNAエンジンならば排気量1,000ccあたり10kg・m程度の値に落ち着くはずです。
某所沢秘密基地のブログを9年間分見直して←、圧縮圧力まで調整したと思えるデータを8点(5ポート車6点およびマルチポート車2点)抽出し、排気量に対して最大トルクをプロットしたのが左上の図になります。
限られたデータの中での結果となりますが、まずは5ポート車のプロット(青丸)に注目すると、おおよそ1,300ccまでは「排気量1,000ccあたり10kg・m」の直線に乗っているのですが、1,300ccを超えたあたりから寝てきてしまってます。
これは排気量の拡大に対してヘッド(おそらく吸気ポート)がボトルネックになってしまって、1,300ccを超えたあたりから十分に吸気しきれなくなり、圧縮圧力が上がらずトルクが低下しているのではないかと推測しています。高回転のために吸気時間が短くなる出力点ではなく、4,000〜6,000rpmの最大トルク点ですらボトルネックになってしまっていることから、排気量に対して吸気のキャパが根本的に足りなくなっているように思います。
この考察を裏付ける傍証ですが、マルチポート化するとこのトルクが寝てくる傾向は解消されます(白抜きの青丸)。ヘッドのポートがボトルネックになっている証拠ではないかと思いますし、ヘッドのボトルネックが大きくなる大排気量でこそマルチポート化の効果は大きいとも言えるかと思います。
1,300cc以上の排気量では吸気のボトルネックからトルクが低下することを説明しましたが、その一方で緑ミニの最大トルクはこの議論だけでは説明できないほど下に居ます。何か他にもロスに繋がる要因があることになります。
それを確認するための一つの指標として損失出力にも着目してまとめてみました。それが右上のグラフになります。
損失抵抗は排気量との相関はなさそうで、10kg・mあたりを中心に±5kg・m程度の範囲で分散しています。
緑ミニの損失出力は・・・、確かにこの中では最大ではありますが(汗)、それでも他に比べて圧倒的に大きいことはなく、出力の低さを説明しきれるほどではありません。とは言え、損失出力を緑ミニの14PSに対して7PSまで下げた車もありますから、エンジンの組み様によっては損失低減で7PS取り返せることを示しているわけで、チューニングする上で無視できない寄与ではあります。
ここまでをまとめるとこんな感じになります。
トルク直線から低下した分の内訳として、「ヘッドのボトルネック」起因の低下と、それだけで説明できない「緑ミニ固有のロス」がある、と。
データから追えるのはこれが限界ですので、ここから先は現物を見て確認していこうと思います。
SBoM第2戦後にバラした際のエンジンの状態です。
ドレンの鉄粉は少々。
フライホイールのバランスが取れていないのではないかという懸念があったのですが、フライホイール、クランクシャフト共にバランスは問題なく、クランクの曲がりもありませんでした。
その結果でもあるのですが、最も負荷が掛かるリア側のメインジャーナルでもメタルの状態に問題なし。
センターも問題なし。
フロント側も問題なし。
というわけで、回転系のダイナミックバランスが取れていなかったという説は完全に棄却されました。
ピストンです。Supertech製のショートハイトピストンですが、
スカートが傷だらけになってます。特にスカートの端の部分は囓って斜めに削れてしまってます。
シリンダー側です。
光が反射してよく分かりませんが(汗)、クリアランスは10/100まで広がってしまってました。予選敗退4回、下道走行含めておそらく400kmも走ってないのですが、既にクリアランスの許容値を超えてしまいました。
どの部分が最もクリアランスが広がっているかをP師に探って頂いたところ、ブロック上端から45〜50mm下の車両前後側という結果になりました。
これは何を示しているかというと、この位置は上死点にいるピストンのちょうどスカートの下端に相当する位置になりますので、要するに爆発行程でピストンが下がり始める時に最初からピストンが傾いていて、ピストンがシリンダーウォールを削りながら下がっていることを示してます。
いわゆる「ピストンの首振り」という現象です。ただし、一般的にはピストンの首振りは吸気、圧縮、排気といったクランクシャフトからの力でピストンが引きずり回される行程で激しくなり、爆発行程で爆発圧がピストントップに均等に掛かる状態ならばそれほど酷くはならないと聞いた覚えがあります。にもかかわらず、緑ミニの場合は一般的に影響が少ないはずの爆発行程ですら首を振ってシリンダーをゴリゴリ削っていたわけで、今回の緑ミニのようにロングストロークのクランクシャフトにショートハイトピストンを組み合わせた場合の首振りが如何に酷いかが・・・ようやく理解できました。
爆発行程での首振りが酷いことから、その他の行程での首振りも相当に酷いことが想像できます。従って緑ミニの大きめの損失出力もこの理屈に合致します。
また、爆発行程での首振りによるロスそのものは、低下した計測出力として現れるのみとなりますので表面化しにくくわかりにくいですが、負荷が高い状態でアクセル全開にするような状況で顕著になるはずですので、せいぜい2速までしか使わない成田では問題なくて3速4速で高回転まで回す筑波で影響が顕在化したのもこの理屈に合致します。
あとは、このピストンの首振りが原因でタイミングベルト外れにつながるようなクランクシャフトの振動が発生するかですが・・・、爆発行程毎にピストンがゴリゴリ削れている状態ではクランクシャフトに伝わる爆発力の変動も複雑なものになるはずで、それが異常なトルク変動に繋がった・・・のかなあ、という想像しか出来ません。まあこれは今後の対策エンジンで確認するしかないかなと思ってます。
エンジンチューニングではピストンのショートハイト化は普通に行われるアイテムになってますが、ショートハイト化による首振りを防ぐためにはクリアランスを詰める等の手当が必要です。
ところがミニのエンジンは、捻れの影響を受けやすい3ベアリングのクランクシャフトだったり、またピストンからクランクシャフトへの入力がブレそうなオフセットボーリングのブロックだったりすることから、現代のエンジンよりも大きめのピストンクリアランスが必要とされてます。
そのピストンクリアランスを詰めるには焼き付きのリスクが伴うため、やるならば相当に慎重に進める必要がありそうです。
関連して思い当たる情報もいくつかありまして。
オメガのミニ用ピストンって73.5mmに関しては鋳造がラインナップのメインなんですが、首振りによるパワーロスを防ぐためには寸法変化の少ない鋳造ピストンでクリアランス狭めを狙うべき・・・という先人達からのメッセージだったのかもしれません。
また、マルチウェブのクランクシャフトは出力が出にくいという噂を聞いたことがありますが、これも原因はクランクシャフト本体ではなくてキットに含まれているショートハイトピストンが原因なのかもしれません。
結論は、ロングストローククランク仕様でショートハイトピストンはやめた方が良さそう、という事になります。
あくまで状況証拠からの仮説ですので、「うちのはショートハイトだけどこんなに出力出るぜ」とかありましたら、使い熟しのノウハウ含めて是非教えて頂きたいです。
・・・これまでのストレスとか思い入れとかいろいろ詰め込んだ結果、長文になり過ぎてロジックが通っているか自分でも分からなくなってしまいましたが汗、そのうち書き直すかもしれませんがご容赦下さい。
今後のエンジンの構想と仕様についての詳細は次回に続きます。
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