大型セダンには逆風が吹きすさぶ日本市場。しかしながら堅調なのがやはりというべきかクラウンだ。それに対して日産の雄、シーマやフーガなどはどうにもパッとしない。

 その根底にはやはり日本市場を大事にしないメーカーの姿勢があるのだろうか? クルマが売れないとはいってもミニバンもSUVも売れている今日この頃。

 高級車市場が寂しい現状に迫ります。

文/写真:ベストカー編集部
ベストカー2018年10月26日号


■シーマ現象はもはや幻か!? クラウン一人勝ちの謎

 2018年1〜6月の販売累計を見ると、全長が4800mmを超えるセダンで、販売台数が最も多かったのは2018年6月登場のクラウンだ。

 それでも1カ月平均で2057台だが、ほかの上級セダンはさらに少ない。税金面でコンパクトカーや軽自動車、実用性でSUVやミニバンに多くの消費者が流れている現状を見れば、この数字は立派なものだろう。

 過去を振り返ると、1990年代の前半まではLサイズセダンの販売も好調だった。初代シーマの開発者は「日産が販売できる超高級セダンの月販台数は、当時で約1000台と考えられていた。この台数でシーマの採算が取れるか大いに悩んだ」と語った。

 そこを1988年の発売時点で、シーマの月販目標は強気の3000台に増やされ、ほぼ計画通りの台数を売った。

1988年登場の初代シーマは新車時価格が500万円台にも乗るグレードもあった。それでも時代背景もあり社会現象になるほど売れていたのだが……

 一方、2012年に発売された現行シーマの目標は、1年に1000台だから1カ月平均ならわずか83台だ。

 前述の開発者の言葉に照合すると、採算がまったく取れない。それでもすまされるのは、今のシーマをはじめとする高級セダンの大半が、海外市場をメインに開発されるからだ。

 初代シーマは日本が相手だったから、開発者は大いに悩み、試行錯誤の結果、成功を勝ち取って「シーマ現象」という言葉まで生まれた。

 これが海外中心になると、国内の月販目標は100台以下だから「日本でも買えますよ」という話だ。

 そのような海外向けの日本車を、国内の顧客が喜んで買うワケがない。この20年少々の間に、国産高級セダンは様変わりしたが、今でも唯一日本を相手に開発されるのがクラウンだ。

大胆なエクステリアの変更、さらにはニュルブルクリンクでの開発などクラウンファンが離れないか不安を感じたメディアも多い。しかしふたを開ければ長年のブランド力は強かった

 一部は海外でも売られるが、ほかのLサイズセダンに比べると国内比率が圧倒的に高い。だからこそ今でも堅調に売れるのだ。

 現行型の外観は、トランクフードが短く見えるファストバック風に変わり、40年以上設定され続けたロイヤルサルーンも廃止した。

 大幅に変化したが、これもユーザーの若返りなど国内市場のニーズに合わせた結果だ。

 メルセデスベンツC/Eクラスに近づいた印象もあり「これなら本物のベンツを買う」と考えるユーザーが増えることも予想されるが、仮にそうなればクラウンは、日本で生き残るために新たな発展をするだろう。

■クラウンが日本にこだわる理由は2つある

 そこまでクラウンが日本にこだわる理由は2つある。

 まずはトヨタの、というより国産乗用車の中心であるからだ。1955年に誕生した初代クラウンは、高級セダンなのに海外メーカーの助けを受けずに開発され、多くの人たちに純粋な国産車を持つ夢をもたらした。

 他メーカーもクラウンを意識して、自動車産業が活性化する刺激を与えた。日本車が今に至る根幹だから、日本から逃げられない。

 2つ目はトヨタ店の尽力だ。今でも新型クラウンが発売されると、実車を見ずに即座に注文する従来型のユーザーが多いという。

クラウンは言うまでもなく国内市場に向けた1台。その期待に応えることもクラウンの義務であり、伝統だったシートバックのハンドルもあえて残しているのだ

 それはトヨタというメーカーと、クラウンという商品、トヨタ店とそのセールスマンに絶大な信頼を置くからだ。これこそが本当のブランドで、レクサスなど、トヨタとクラウンの足元にも及ばない。

 「クルマ離れ」という言葉が生まれて久しいが、クラウンを見ると、それがメーカーにとって都合のいい偽りの表現だとわかる。

 高級セダンをはじめとする多くの日本車は、商品開発が海外中心になって売れゆきを下げたのだ。日本車の「日本離れ」が真実であることを、日本に寄り沿うクラウンは雄弁に物語っている。