昨年、クラシックカー界で大きな話題が駆け巡った。ヨコハマタイヤがクラシックカー向けにかつての伝説のタイヤ「ADVAN HF Type D」を復刻させ、新たに発売したのだ。
「ADVAN HF Type D」といえばサーキットで使用されるスリックタイヤにディンプル(特徴的な凹み)を施したトレッドデザインを「片側のみ」に採用した斬新な商品で、1981年の発売当時、人気を博していた70年代のスポーツカーたちがこぞって履き替え、ヨコハマタイヤの躍進を支えた名門ブランド。
近年さらに人気が高まってきたクラシックカーに向けて、昨年ヨコハマが復刻して発売し、大きな話題となっている。
そんな「ADVAN HF Type D」を、初代セリカリフトバックに履かせて箱根ターンパイクで試乗してもらいました! さてその実力やいかに!?
文:ベストカーWeb編集部/斎藤聡 写真:平野学
■「旧車乗りは全員これに履き替えたほうがいいですよ!」
今回の試乗記にご協力いただいたのは、「初代セリカオーナーズクラブ」の中垣健一さん(53歳)と綾花さん(22歳)。どちらも初代セリカのLBを所有しており、発売以来「ADVAN HF Type D」が気になっていて、今回の話を持ちかけたところ「ぜひ協力したい」と、わざわざ履き替えて箱根まで駆けつけてくれた。
「これは、旧車乗りは全員履き替えたほうがいいですよ。それくらいいいです」と語ってくれたのは中垣さん。
「千葉からここまで高速道路を走ってきましたが、まずロードノイズが少ないのに驚きました。それと乗っていて安心感がありますね。旧車乗りにとってはこの安心感が大きいです。カーブを曲がる時にステアリングをこじるんですが、非常に素直にタイヤが追随してくれる感覚があります。ボディの剛性も考えてくれていて、ちゃんと古いクルマに合わせて作ってくれたんだな、というのが実感します」
と大変評価が高かった。
「旧車って合うタイヤが少ないんですが、それでもいろんな人がいて、バイアスにこだわるタイプやホワイトリボンが好きなタイプ、エコタイヤがいいという人もいるんですね。ただスポーツタイヤを履きたいという人には、このType Dが一押しですよ」
とのこと。
続いて綾花さんに感想を伺うと、
「高速道路の継ぎ目を乗り越えるのがグッと楽に感じました。グリップ感があってコーナーや進み出しがスムーズですよね。これまでは古いタイヤをヒビが入るまで履いていたんですが、ヨコハマさんがこういうタイヤを出してくれたのは、本当に嬉しいですしありがたいです。ADVAN HF Type Dっていうタイヤを知らなかったんですけれども、わたしたちのような若い世代にとっては、こういうブランドが今の技術で復活すると、昔のことを知る切っ掛けができて、それも嬉しいです」
と、聞いてるこちらも嬉しくなるようなコメントだった。
いい機会なので綾花さんには初代セリカの魅力も伺ってみると、
「一番いいなって思うのはデザインです。販売されていた当時はスーパーカーみたいな存在だったと思うんですけど、いま見ると可愛いですよね。(同年代の)友達とかに見せても“可愛いねー”って言われるんです。そういうギャップがいいし、あとは音が大きいとか(整備の)手間がかかるとか、そういうことがあると不調になったらすぐわかるじゃないですか。その手がかかるところもいいなって思います」
とのこと。
ADVAN HF Type D、正直ここまで評価が高いとは思わなかった。それくらい、旧車乗りには「旧車のためのブランド」って、待ち焦がれていたものだったんですね。
また、ここでプロのジャーナリストの視点もぜひ知っておきたい、ということで、自動車ジャーナリストでタイヤにも旧車にも詳しい斎藤聡さんに、ADVAN HF Type D×初代セリカを試乗していただいた。
■どんなふうにアレンジを加えて復活させたか TEXT:斎藤聡
ADVAN Type Dが復活した。その復活したType DをセリカLBに装着してインプレッションしてみた。
かつてADVANといえば、体育会系スポーツタイヤといいたくなるほど硬派なスポーツタイヤだった。ケース(骨格)剛性が高く、カチッとした乗り味を持っていた。
復活するにあたって、当時のタイヤをそのまま再現しているはずはなく、また現代の技術でハイグリップタイヤを作ってしまえばグリップ過多のタイヤが出来上がってしまう。興味のポイントは、37年前にデビューしたタイヤにどんなふうにアレンジを加えて復活させたのかという点だ。
今回試乗するにあたって、2台のセリカLBにタイプDを装着。一台は13インチで、前185/60R13、後185/70R13という組み合わせ。もう一台は14インチで前後185/60R14サイズだった。また試乗したセリカLBはびっくりするほど整備状態がよく、エンジンはもちろん、サスペンションもボディもしっかりしており、攻めるような走りはさすがにはばかられるものの、無理なく普通に速いペースで走れるほど整備の行き届いたクルマだったことを付け加えておく。
■応答◎、安定性◎、安心感◎!!
さて、復活したType D試乗した印象だが、結論を急げば、ケースがしなやかになっており、乗り味はだいぶモダンになっていた。
もうちょっと細かく見ていくと、13インチのほうは、リヤが70偏平でタイヤのたわみが適度に感じられるものだった。フロントが60偏平ということもあって、ハンドルを切り出した時の応答がよく、フロントの動きにリヤがしんなりついてくる感じ。
普通にハイペースで走ってもタイヤがブレークしないだけの剛性があり、グリップの強さからくる安定性、安心感があった。
14インチで前後60偏平は、ハンドル操作に前後のタイヤが素直についてくる感じ。カチッとした角張った動きがややマイルドになっているところが当時よりモダンになった部分だが、がっしりしたタイヤの感じ、グリップ感やグリップの良さからくる安定感がちゃんと作り込まれていた。
なによりも70~80年代に憧れたスポーツカーに、当時一世を風靡したスポーツタイヤ=ADVAN HF Type Dを履くことができることがうれしい。