古いクルマ、いわゆる昭和や平成初期のクルマのメンテナンスや車検等の法定点検目的でもディーラーで入庫が断られるという話をしばしば耳にする。30年も前に造られたクルマだけに、これはやむを得ないかもしれない。
しかし一昔前、いわゆる先々代あたりのモデルでも入庫が断られることもあるという。
新車で購入してから継続的に入庫していたオーナーはもちろんのこと、中古車を購入してリフレッシュを兼ねてディーラーでいちど診てもらいたいと考えていたオーナーも困惑してしまうだろう。
生産終了モデルのディーラー整備でぶつかる「壁」とは?実際にあった例をまとめてみた。
文/松村透
写真/トヨタ、日産、マツダ、AdobeStock(buritora,ドンピエロ,tkyszk,memorystockphoto,Gorodenkoff,Tomasz Zajda,somchai20162516,Irina)
■ディーラーに対応できるメカニックがいない
ディーラーのメカニックは新入社員が入社するたびに代替わりしていく。若いメカニックの割合が多いディーラーでは、良くも悪くも直近のモデルがメインになりがちだ。
現行モデルを新車で購入したユーザーが「主たるお客様」なのだから当然といえるだろう。
それこそ、昭和の時代はフルモデルチェンジまで4年サイクルというモデルが多かった。しかし最近は6年〜8年サイクルというモデルも珍しくなくなった。
先々代モデルというと、もはや10数年前のクルマなのだ。その当時、現役だったメカニックが年齢と経験を重ね偉くなって現場を離れているか、さまざまな理由で退職しているケースもある。
ディーラーとしても古いモデルに対するノウハウを持ったメカニックがいない場合、持ち込まれても困ってしまうのが正直なところだ。
■整備が完了するまで時間がかかる(場所を占有する)
ある程度、年数が経過したクルマのメンテナンスや修理、さらには車検を含めた法定点検のみで作業を終わらせられないこともしばしばだ。
取り寄せ、または交換する部品が多い、マニュアル通りとはいかず着脱にも気を遣う(経年劣化で勢いよく外すと割れたりすることもある)。
必然的にリフトを占有する時間も長くなる。1つの店舗に10基ものリフトがあるような大型のディーラーであれば、スペースにも多少の余裕があるだろう。
しかし、都市部など、限られた立地に店舗を構えるディーラーともなればリフトの台数も必然的に少なくなる。
入庫するたびに何十万もの整備費用をポンと支払ってくれるオーナーであればまだよいのだが、効率よく現場を回転させたいサービス部門にとっては、長い時間占有するクルマの存在は困りものというケースも少なくないのだ。
■製廃&欠品の部品があると整備できないケースも
トヨタを例に挙げると「あくまでも目安」としつつも、工場装着の部品の保有期間は約10年。そこから先は在庫のみとなる(メーカーや車種、部品によっては必要に応じて生産することもある)。
また、ディーラーオプションともなればモデルチェンジの時点で製造を打ち切るため、あとは各店舗やパーツセンターなどの在庫のみとなる。
その結果、先々代モデルともなれば、10年選手の個体も少なくないだろう。つまり、ちょうどメーカーが定義する部品の保有期間の目安ギリギリのラインだ。
部品によっては欠品が出始める頃かもしれない。そして厄介なのが製廃(製造廃止)だ。
サプライヤーが部品の金型を処分してしまったら、NISMOヘリテージパーツやマツダロードスターの部品の再生産といったごく限られた例外でもないかぎり、かなりの確率で新品の部品が生産される可能性は低い。
そうなると、ディーラーとしても「部品が生産終了しているので整備できません」と答えざるを得ない。その受け皿として、特定のモデルに精通した専門店が駆け込み寺となってくるわけだ。
■新車に代替えする可能性が低い
ディーラーにはさまざまな収益源がある。新車販売、点検整備などのサービス部門、純正部品、保険、ファイナンス・・・などなど多岐に渡る。
管理顧客としてがっちりユーザーを囲い込むには、今どきなら「新車を残価設定ローンで購入であり、さらに保険やコーティングなどの付帯品も一元管理」が理想的なユーザーだろう。
1台のクルマを、長く大切に使うこと自体は素晴らしい行為だというのは、ディーラー側にとってはあくまでも建前だ。
本音としてはあらゆる施策でユーザーを囲い込み、さらには定期的に新車に買い替えてくれるのが理想的だ。その期待が薄いユーザーともなれば・・・その本音は推して知るべしだろう。
ただし、例外はある。得意客のセカンドカーや、その親族が所有するクルマともなれば話は別だが・・・。
■それでもディーラーで診てもらいたい場合は口コミか紹介で
例外・・・というべきか、古いクルマの持ち込み歓迎というディーラーも存在する。
大っぴらにアピールしているケースは稀なので、同じ車種に乗るユーザーからこっそりと紹介してもらうなど、横の繋がりが大事になってくる。
なかにはディーラーのスタッフがこっそりと「ここなら安心ですよ」と紹介してくれることもあるというから、日ごろの人間関係も大切にしておきたいところだ。
そこまでディーラーメンテナンスにこだわらず、街の整備工場や専門店などに持ち込むというユーザーもいるだろう。もちろんそれはそれでありだ。
信頼できる主治医を見つけられるかが鍵となるので、オーナー自身の「目利き力」が問われることになる。つまり、そこから先は「自己責任」なのだ。
■まとめ:古いクルマの整備は嫌がられる!? 分岐点は先々代? ディーラー整備でぶつかる壁とは?
純正部品の欠品や製廃、対応できるメカニックの有無などを考慮すると、ディーラー整備でぶつかる壁は先々代モデルあたりから・・・といえそうだ。
そこで新車に買い替えるか、何とか頼み込んでディーラー整備を継続するか、はたまた街の整備工場や専門店などにお世話になるかの選択を迫られることになる。
なにもそこまでディーラー整備にこだわる必要はあるのかという意見もあるだろう。それはたしかに一理ありだが、一方でディーラー整備にこだわるオーナーも少なからず存在する。そういった人たちにとっては死活問題なのだ。
事実、懇意にしてきたディーラーから「ウチでは扱えないのでご遠慮を‥」と大変申し訳なさそうな口調でいわれたということもあった。そこは事を荒立てず、静かに立ち去るしかない。
いざという時のために、日ごろからディーラーがダメになったらここ!という目星をつけておくのが得策かも・・・しれない。
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