車検とメインテナンスをお願いして預けた1.3i AT、その作業にかかる日の連絡をもらったので出動である。
取り掛かるのはまず最初のリクエスト「エンジンルームの騒音」だ。志田(兄)の診断では、もっとも騒音の原因になっているのはクーラー・コンプレッサのプーリー・ベアリングであろうとの見立て。一般的に考えれば、クーラーガスを抜き取り、コンプレッサ本体を外しての作業である。昨今、クーラー用の交換部品のリリースが充実している。なんと驚いたことに、交換用のコンプレッサも入手できるようになっていた。JMSAディレクションで再生産されて新品交換も可能なのだ。価格は約5万円と出費は嵩んでしまうが、初期性能が得られるならそれもしかないな、とは思っていた。
が、志田(兄)は「クーラーガスを抜き取るのはもったいないし、使用しているベアリングを単体で購入することができるので、車上でベアリング交換してしまいましょうね」というではないか。ありがたい話だなぁ、などと喜んで見たものの、ラジエータやオイルフィルタは邪魔にならないのだろうか。作業の手間、時間やコストなど諸々を考えると、コンプレッサの新品交換も車上ベアリング交換も最終的にはあまり変わらないかも……、である。とはいってもそこはそれ、メカニック志田兄弟のチャレンジングに敬意を表して享受することにした。
工場に到着したときにはすでにオルタネータは外され、コンプレッサもフリーな状態になっていて、“さっ、コンプレッサの作業をしますよ”感が満々である。
クーラー配管用のホースで拘束されているとはいえ、クラッチプレートやプーリーがすべて見えるほどには引きずり出すことができる。この状況でクラッチ、プーリーを取り外すわけだ。ボク自身、クーラー一式を取り外したことはあるけれども、コンプレッサを修理するのは初めての見学。マグネットクラッチの構造を見るのは初体験で、なかなか興味深いのである。
まずはマグネットクラッチのプレートを外す。資料を読んだら“アマーチュア”とも書かれていた。磁力によってプーリーに吸着してコンプレッサ内部に動力を伝える部品。クーラーのスイッチが入ったときにエンジンルームから“カチッ”と聞こえる、その張本人だ。コンプレッサのシャフトのスプラインに嵌合しているから、こじるように抜き取った。
プーラーを使ってプーリーを抜き取る。スペースに限りがあるので、サイズの違うプーラーを駆使しての作業だ。このプーリにベアリングを装着した状態で、コンプレッサケースのシャフトに圧入してある。ベアリングは抜けないように周囲のプーリ本体にタガネの叩きが数カ所あるので、基本的には非分解なのだろうか……。
作業はタガネの叩き痕部分を旋盤で切り取ってベアリングを交換、新たに金属リングを作ってベアリング押さえとしてプーリに溶接だ。この部分のスラスト方向のクリアランスは大きいという。溶接のままでも問題ないらしいのだが、仕上がりを気遣い、旋盤で面を仕上げておく。こういった一連の作業がプロらしくて好きだ。
車上では圧入機が使えないので、ボルトと大きなワッシャを活用してプーリとクラッチプレートを差し込んでいく。ステディロッドブッシュの交換などにも使えるワザだ。
もう一点、オルタネータのベアリングが気になるという。手で回してもゴロゴロ感がある。最終的にはボクの判断でオルタネータは新品に交換することにした。このところ、電装系の作動に不安な部分も多かったから、良い切っ掛けとなった。
結果的にオイルフィルタが作業を阻害したので、フィルタボウルだけ一時退避。ラジエータもVベルトの交換で少しずらしたけれど、冷却液を抜くことはなかった。コンプレッサ、オルタネータを復元し、アラインメントを確認して、第一段階終了である(つづく)
田代(G)基晴
10月号より本誌編集長:ミニより1歳年下の1960年生まれ。ミニ・フリーク誌のスタートからどっぷりミニ漬けの人生。現在はフリーランスの写真家、編集者として活動。趣味の伝道師を目指し、日々精進している…