’60年代ミニを語る上で忘れてはならないのが、いわゆる「当時モノ」。当時の純正パーツやチューニングパーツを多数ストックするミニ業界の重鎮、越後廣正氏の希少なコレクションをご紹介していこう。
貴婦人みたいなデリケートなAEG-163ヘッド
クーパーS MKI。
1071ccは1963年4月〜1964年8月迄生産。
970ccは1964年6月〜1965年迄。
1275ccは1964年8月〜1967年9月迄生産された。
エンジンには接頭コードナンバーがあり、9F/SA/X、9FD/SA/H、9FE/SA/Yなどがある。
末尾の記号のX、H、Yは圧縮比を意味する。
Hは1071ccで圧縮比9.0:1。970ccはXで10:1。1275ccはYで9.75:1の圧縮比で、当時のクーパーSはヒルマンインプ、ロータス系などと並んでハイエンプレッションなクルマであった。
またクーパーSは圧縮比を高めたため、強度を維持する必要上、スタットボルトを9本から11本に増やした。
またバルブスプリングもサウンジングを起こしにくいようにダブルに変更された。
初期のヘッドは、12A-185のナンバーが付けられたが、すぐにAEG-163ヘッドに変更された。
163ヘッドは滑らかにまわるヘッドだが、材質を薄く軽量化したたため、当時のユーザーからインナーバルブとアウターバルブ間にクラックが入るという苦情が多く寄せられた。
また、日本でも英国でもまともに暖気運転をしなかったり、レースやラリー、ジムカーナーなどで熱くなり高回転でエンジンをまわしたためにクラックを起こした人が多く、日本においては、有鉛ガソリンから無鉛ガソリンになり、まわし過ぎなどでクラックを起こしたエンジンも多かった。
AEG-163ヘッドは良くまわるが決して堅牢なヘッドではない。AEG-163は強度が非常に高く頑固なヘッド、などというショップの人や雑誌社の方々が居るが、それは大きな間違いである。しかし、163はデリケートな良いヘッドであることは間違いない。
そのデリケートさゆえに、AEG-163 MKIオリジナルヘッドの新品に近いコンディションのものは、日本、英国に於いてもマニアでなければ所持することができなくなった。
写真のAEG163ヘッドは、1967年キャピタルが輸入したクーパー1275Sに搭載されていたもの。オーナーの友人が購入後すぐにダウントチューニングしたため譲り受けた。グリスづけに油紙で新品に近い状態で残っている。
快適なハイドロラスティックサスペンション
クーパー、クーパーSのサスペンションには2種類あり、ラバーコン(ドライ)、ハイドロラスティック(ウエット)が採用されていた。
1964年9月から997ccクーパーと1071Sの初期のみ、998ccクーパー、970S 1275Sはドライとウエットが採用されたが、1969年11月にはコストダウンのためクーパーS1275だけが残り、MKIIIが1971年6月に生産が終了するまで、ハイドロラスティックサスペンションは装備された。
しかし、1969年10月に登場したクラブマン1275GTにも1971年6月までハイドロサスが装備されていた。ハイドロシステムは、前後のハイドラサスをパイプ管で結び、水とアルコールと防腐剤の混合液をハイドラ専用ポンプで注入して高さを調節するシステムである。ハイドロユニットには硬さを表すカラーマーキングがある。
スタンダードクーパー
フロント、リヤともノーマルバンド(無印)
21A1477(フロント)、21A1703(リア)
後期はノーマルバンド ワンオレンジ ノーマルバンドグリーンの21A1804(フロント)、21A2008(リア)がついている。ステッフバンド前期は、
ワンイエローバンドC-21A1705(フロント&リア)、後期ツーオレンジバンド21A1811(フロント&リア)
クーパーS
ハードバンド前期は、ワンレッドバンドC-21A1819(フロント) 、ツーレッドバンドC-21A1821(リア)
後期は、ワンブルーバンド21A1872(フロント)、ツーブルーバンド21A1874(リア)
ワンシルバーバンド21A2012(フロント)、ツーシルバーバンド21A2014(リア)
初期型のクーパーSにはステックとハードバンドにCパーツのユニットがコンペティション用として組み込まれていた。各ユニットにはシルバーブルーレッドなどでスプレーにて色分けされて、色なしの場合はノーマルバンドである。また、クーパー1275Sにノーマルバンドやステックバンドを付けると、パワーがあり過ぎる上、足まわりが軟らかすぎてとても乗りにくいクルマになってしまう。
現在、ドライからハードのハイドロサスペンションに新品で変更する場合は、フロントリヤ、サブフレーム、ハイドロユニット(4個)、パイプ(左右)、アッパーアーム、リヤーコイル、その他小物などを交換する必要があり、現在のレートで100万円以上かかってしまう。とくにハードタイプのユニットとアッパーアームの新品が入手不可能かもしれない。現在使用しているユニットがパンクした時に備えて、ハードタイプのユニット、サーブフレームなど2セット(8個)ばかり確保している。私もハイドロサスペンションでなければこの歳でクーパー1275Sには乗っていられないだろうと思う。つき上げがない快適なサスの乗り心地だ。
2019.4月号より